主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

女の裸など見慣れていたが、朧の肢体は特別綺麗で瑞々しく、見惚れる代物だった。


脱がせている間声も上げずただ顔を両手で隠している。
初々しい反応に獣としての本性も疼く。


「朧…」


「…」


返事がない。

全て脱ぎ、全て脱がせて後は事に及ぶだけだったが、朧から聞こえたのはーー寝息だった。

初めて飲んだ酒が緊張感さえも凌駕して眠りにつかせたことに、焔はふと自我を取り戻して薄く笑った。


「私ときたら……」


…反応しない。

男として。

朧を抱こうにも身体が反応せず、焔は天井を仰いで目を閉じた。


「そうか…そこまで…」


ただ一矢報いたいという思いは強く、朧を抱かずとも翌朝そう見えたように装って化かしてあざ笑ってやろうという狐の本能が働き、押入れを開けて床を敷くと、朧を布団に包んで寝かしつけた。

そして自らの指を少し噛み切って出血させると、それを朧の尻のあたりに何滴か落としてほくそ笑む。


「…あなたを傷物にするところだった」


朧と夫婦になり、雪男と朔との結束をさらに強いものにせんとすることはとても恨めしい。

だがーー力こそ全ての妖の世界。

ならば力を見せつけて朔に“俺のものになれ”と言わせたい。


「あなたは…何も関係がないのに」


翌朝朧はとても驚くだろう。
悲鳴を上げる前にこう言ってやるのだ。


“こんな風に油断すると大事になりますよ”と。


朧の寝顔は可愛らしく、見ているうちについ眠たくなって寝てしまったのが、運の尽き。


ーー翌朝あまりにも設定に拘ったため、起きた朧は焔の想像以上の反応を見せて、引きつけを起こしそうな勢いだった。


冗談だ、と告げる間も無く動揺して、誰にも言うなと真っ青な顔で懇願され、最早とてもではないが冗談だと言える空気ではなかった。

…このまま朔の耳に入ることはないのだろうか。

ただ化かしてやりたかっただけなのにそれは大惨事に発展しそうで、行方を眩ます他なかった。


ただーー朔の手によって殺されるのも、どれだけ幸せなことだろうか、とも思っていた。