主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

雪男と朧が夫婦にーー

つまり…雪男は朔の身内となり、未来永劫を一族の一員として縁の下の力持ちとなる。

それは自分が最も欲している立ち位置…いや、百鬼夜行の先頭を行く朔の右腕としての立ち位置、それこそが望んでいるものだった。


今恍惚とした表情で口付けを待っている朧は酒に酔い、自分の姿が雪男に見えているらしい。


…あの男が憎い。

正式な百鬼に未だ選ばれず評価されない自分とは大違いーー


「…朧」


「氷雨…」


氷雨ーー雪男の真名。

今思えばふたりは度々こそこそしていたし、師弟関係を超えていたのだろう。


…とても美しい娘だと思ってはいたが、父の言うように朧と夫婦になって確固たる地位を確立するという考えには及ばなかった。

それは違う、と思った。


「…あの男さえ居なければ…」


朔は自分を選んでくれるだろうか?

まだ若い自分にはまだまだ伸び代がある。
鍛錬を重ねれば雪男以上に強くなれるかもしれないし、雪男さえ居なければきっと選ばれる自信があった。


「氷雨…」


憎しみに逆巻く焔を雪男と誤認している朧自らが唇を重ねてきた。

それに応えるのは簡単で、朧を抱きしめて深く唇を重ねると、そのまま倒れ込んで覆い被さった。


「朧…抱くぞ」


雪男が言いそうな口調で耳元で囁くと、恥ずかしそうに目を閉じながら朧が頷いた。


「兄様には内緒…」


ーーこんなこと、朔に知られたらそれこそ殺されてしまうだろう。

だがどす黒い激情の渦に飲み込まれた焔は、朧の着物の帯に手をかけて解き、両手で顔を覆っている朧の胸元を開き、そこに見つけた。


「…唇の跡…」


もう事に及んでいるのか?

試しに首筋を指で撫でた。

大きく身体が跳ねて、数多くの女を抱いてきた焔は朧がまだ誰にも身体を許していないと確信した。


「私の憎しみを知るがいい」


最早、雪男を憎んでいるのか、朔を憎んでいるのか、分からなくなっていた。