主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧と夫婦にさせる願いは潰えた。

朔はそれをとても残念に思い、また昔話に花が咲き、普段は寡黙すぎる十六夜も話に参加して雪男と出会った時の話を披露する。

恥ずかしがる雪男に特別惜別の思いがあった十六夜だったが、それを口に出す男ではない。


「母様…私…お師匠様にちゃんと話を…」


男たちだけで雪男を取り囲んで話をしている輪に入っていけない朧が居間に通じる襖を少しだけ開けて雪男の様子を盗み見ていた。


…本当に呆れられてしまったーー

雪男が迎えに来てくれた時どうして一緒に戻らなかったのか…後悔ばかりが先に立ち、己を責め続ける。


「朧ちゃん、明日まで時間があるからとりあえず落ち着こ?」


まだろくに事情を離さない朧の手を引いて自室に連れて行き、敷いた床に寝かしつける。

涙ばかり流して目を真っ赤にしている朧が哀れで、また雪男の苦渋の決断に胸が痛む。


「朧ちゃん…その…焔ちゃんとは本当に…」


「……朝起きたら裸で…隣に焔さんが…血も出てて…」


ーーそれはもう間違いなく事に至ったのだろう。

残酷な現実に目を閉じた息吹は無理矢理笑顔を作って朧の隣に潜り込む。


「そっか…赤ちゃんも産まれてくることだし母様にもお世話させてね?」


「……」


返事はない。

好きでもない男の子を産むのだーー不安もあれば、何より愛した男が去ろうとしている。


「きっと朔ちゃんたちが説得してくれるから大丈夫。雪ちゃんも考え直してくれるはずだよ」


ーー能天気な母が羨ましい…

明るく振舞ってくれているのだと知っていながらも、苛ついてしまう。


「…そうですね…」


「朧ちゃん、ひとまず身体を休めて。雪ちゃんのことは絶対どうにかしてみせるから」


この想いだけは伝えなければ。

朧は寝たふりをして機会を待った。

そしてしばらくすると息吹が油断して寝入ると、そっと床から出た。