主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

目の前には朔と輝夜が。

輝夜はにこにこしているが、朔は仏頂面のままで盃を空にする度に並々と酒を注いでくる。


「ちょ、主さま」


「朧の手が温かいままなのにお前は逃げようとしている。男らしくないぞ」


「まあそうとられてもいいよ。俺は朧を幸せにしてやれない。産まれてくる子を可愛がれるかも分からない。俺さ、父無し子だったから父親が居ない寂しさは分かるんだ」


それを言われてしまうとふたりともそれ以上は言い募れない。

幼かった頃十六夜はまだ当主だったため毎晩居なかったが、丸一日居ないということはなかった。


「…そうか。しかしお前が父になれば…」


「…愛せないかもしれない。そうなれば、よりつらい思いをさせる。主さま、俺は間違ってないんだ。ひとまず…ここから出て行きたい」


「…戻ってこないのか?」


「そうだな…朧とはもう会いたくないな。ここに一生居るわけじゃないなら戻って来てもいいな。…朧がここには二度と顔を出さないって条件を呑んでくれれば」


ーー徹底的に朧との距離を置くつもりだ。

朔と輝夜は顔を見合わせた。
輝夜は何もかも知って居るかもしれないが未来を語らないため、朔が判断する他ない。


「お前と夫婦になるならばここに住まわせようと思っていたが、そうでなければここに置くつもりはない」


「そっか。じゃあ…考えてもいいな。ははっ、俺すげえ偉そう」


「お前の貢献度は多大なものだ。お前の代えはきかない。誰が俺の面倒を見れる?」


ーー代々の当主は曲者が多く、朔は割りかし素直な方だがそれでも扱いが難しいことに変わりはない。

雪男だからこそ朔を制御できていた。

だからこそ朔自身も雪男を欠けば自分がどうなるか自信がなかった。


「面倒見てくれる嫁さん探した方が早いぜ?」


「お前の方がいい」


不覚にも涙が出そうになった。

ここには辛いことが多いがーー故郷よりも長く身を置いた場所。


今さらながら、ここが故郷で、死に場所なのだと気付いた。

もう遅かったけれどーー