主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧と目が合ってしまえばきっと未練に苛まれて気持ちが揺らいでしまうー

雪男は皆に囲まれて努めて明るい笑い声を上げると、朔の手をやんわり外して屋敷の居間を指した。


「百鬼夜行はしなくていいのか?」


「大問題が起きた。それどころじゃない」


「ははっ、そりゃ難儀だなあ。ま、じゃあ酒でも飲むか」


朔が今度は袖を握る。

まるで子供返りになったかのようで、雪男は思わず吹き出してそのまま歩き出した。


ーー朔が小さかった頃、次代の当主としてありとあらゆる教育を施した。

どの兄弟にもそれは同じだったが、朔は特に雪男に懐き、行く所後ろをついて歩いていたのが懐かしい。


「お師匠様…っ」


「お前は晴明にちゃんと診てもらえよ。今まで逃げ通しだったろ、心身共に疲れてるはずだ」


「お祖父様は翌朝にしか来れないらしい。雪男
、お前…覚悟しろよ」


「は?何の覚悟だよ」


「今からお前を口説き倒す」


「なんて羨ま…私も参戦しますよ」


焔は銀によって肩を抱かれて朧の脇を通ろうとしたが、その時朧が焔を無表情に見上げてぽつりと呟く。


「…あんなことがなければ…」


「…過ぎたことです。その話はまた後で」


地下には牢があり、そこに入ればどんな術を使っても出ることは不可能。
そこに連れて行かれる焔と、朔と輝夜によって夜通しの説得が行われることでげんなりしている雪男ーー


残された朧は十六夜と息吹に肩を抱かれて感極まり、唇を震わせてその場にうずくまった。


「父様…母様…ごめんなさい…」


「…事情を話してもらえるか?」


「…私は…戻って来るつもりはありませんでした…。お師匠様が居なくなるって言ったから…っ」


ーー今すぐに話を聞くのは酷だ。

息吹は十六夜に首を振って朧の手を引くと、風呂へ誘導する。

庶民の生活をしたことのない朧はくたびれているように見えた。

そこまでしてーー雪男に隠そうとした秘密の大きさに、息吹は鼻を啜った。