主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

誰の目から見ても、焔は傍観しているように見えた。

ただすぐ傍には輝夜が立っている。
腕を組んではいるが、焔かおかしな行動をとればいつでもすぐに対処できるようにしていた。


「焔、お前よく朧を放っておいてたな」


「私の想像よりも遥かに事態が悪化していたもので。鬼灯様が現れるまでは事態の深刻さに気付きませんでした」


そこではじめて輝夜が陰から動いていたのが明かされ、皆の視線が集まる。

輝夜はにこっと笑って横目で焔を見遣った。


「なんだよ事態の深刻さって…そもそもお前よくも…」


俺と朧との仲を勘付いていながらよくも手を出したな、と言いかけてやめた雪男は、落ち着くために大きく息を吐いて殺気を鎮めた。


「お前は半妖だ。半分人なんだから、朧と子のためにできることをしろ。人の慣わしに則るんだ」


「…それがおかしな話だと言ってるんですよ。なぜそんなことに」


「…?」


皆が訝しんだが、焔は肩を竦めて反省の色さえ見せず、青い顔をしている朧に笑いかけた。


「子ができたというなら仕方ありません。父としての役目を果たしましょう」


「焔…っ!」


また怒りで爆発しそうになると、焔の前に銀が立ち、いつもは見せない苦渋に満ちた表情で朔と雪男に謝罪をした。


「罰は甘んじて受ける。殺す以外ならいかようにもして構わない。息子を殺されては俺もここには居られん。いくら朔、お前が可愛かろうとな」


「…」


眼光の鋭さは変わっていない。
瞳孔は縦に狭くなり、肉食獣のようにぎらつく目で焔を睨みつけていたが、雪男がまだ肩の上に乗っている朔の手をぽんぽんと叩いた。


「ほらやめとけって。主さま、俺もう行くから。白兎」


急に名を呼ばれ、今の隅で朔の激昂ぶりに怯えていた白兎が勇気を振り絞って雪男に駆け寄る。


「とりあえず里に戻ろう。お前を送ってから今後どうするか考える」


「お兄様、でも…」


「行かせないと言ったら行かせない。雪男…俺は百鬼の契約は解かない」


「そっか、じゃあ永久欠番ってとこだな」


「雪ちゃんお願いだからせめて朝まで考えて。色々ありすぎて訳わかんないよ…」


出て行くことに変わりはないがーーこの状況で出て行くのはさすがに申し訳ないと思った。


「ん、分かった。朝までだな」


その日、百鬼夜行は行われなかった。