黒い炎を噴き出す天叢雲は焔の首を両断したーーかのように見えた。
それをすんでのところで雪月花が受け止めて雷が落ちたかのような轟音が響いた。
見る見る間に空には暗雲が立ち込めてあちこちで稲光がする。
静かに激高した朔は、間に割って入った雪男を殺気に満ちた目で睨んだ。
「そこをどけ」
「駄目だ主さま」
「そいつは俺が殺す。…朧が身体を許したはずがない。…子だと…?よくも貴様…!」
焔は至近距離で怒りに身を任せている朔にうかつにも見惚れる。
ここに戻れば無事では済むまいと思っていた。
だから甘んじて受けようとしたのだが…
「主さま、朧を…朧の子を俺みたいな父無し子にさせないでくれ。頼む」
「…氷雨、お前が父になれば問題ない」
「俺は朧に拒絶された。もうここに残るつもりもない」
朔の目からすっと殺気が消えたと同時に飛び交っていた鬼火が消える。
茫然自失の状態で刀を下げると、雪男の胸元を掴んでぐっと顔を近付けた。
「なん、だと…?」
「主さま、俺はもう心が折れたんだ。もう生涯誰も好きにならない。…なれない。ここに居るとつらいから百鬼から抜けるのを認めてくれ」
呆然と見守っていた十六夜や息吹も腰を浮かして雪男の突然の申し出に驚き、息吹が声を張り上げた。
「やだ雪ちゃん!居なくならないで!」
「ありがとな、息吹。でももう決めたんだ」
朔が手を離してくれないため、子をあやすようにぽんぽんと頭を叩いて宥める。
「俺の代わりなんていくらでも居る。主さま…今まで世話になった」
「…俺は…認めない。お前の代わりなんて…抜けるなんて許さない」
焔が一歩後退り、雪男を懸命に慰留する姿に歯噛みした。
「だから私は…」
「焔、お前はちゃんと主さまたちと話をして朧と夫婦になるのか、それとも父無し子にさせて悲しませたいのかよく考えろ」
ふっと笑った雪男にまだ信じられないという表情だった朔は再び眼光を放ち、いつもは隠れている牙を見せて威嚇した。
「誰が夫婦になどさせるか。氷雨、考え直せ」
「…もう疲れたんだ俺。主さま、焔を殺すのだけはやめてくれ。銀も正気でいられなくなるぜ」
皆に背を向ける。
もうこのまま去って、どこか遠くへーーこの国から離れるのもいいなと考えながら一歩踏み出そうとした時ーー
「お師匠様…っ!」
空の彼方から、魂から愛した愛しい者の声。
それをすんでのところで雪月花が受け止めて雷が落ちたかのような轟音が響いた。
見る見る間に空には暗雲が立ち込めてあちこちで稲光がする。
静かに激高した朔は、間に割って入った雪男を殺気に満ちた目で睨んだ。
「そこをどけ」
「駄目だ主さま」
「そいつは俺が殺す。…朧が身体を許したはずがない。…子だと…?よくも貴様…!」
焔は至近距離で怒りに身を任せている朔にうかつにも見惚れる。
ここに戻れば無事では済むまいと思っていた。
だから甘んじて受けようとしたのだが…
「主さま、朧を…朧の子を俺みたいな父無し子にさせないでくれ。頼む」
「…氷雨、お前が父になれば問題ない」
「俺は朧に拒絶された。もうここに残るつもりもない」
朔の目からすっと殺気が消えたと同時に飛び交っていた鬼火が消える。
茫然自失の状態で刀を下げると、雪男の胸元を掴んでぐっと顔を近付けた。
「なん、だと…?」
「主さま、俺はもう心が折れたんだ。もう生涯誰も好きにならない。…なれない。ここに居るとつらいから百鬼から抜けるのを認めてくれ」
呆然と見守っていた十六夜や息吹も腰を浮かして雪男の突然の申し出に驚き、息吹が声を張り上げた。
「やだ雪ちゃん!居なくならないで!」
「ありがとな、息吹。でももう決めたんだ」
朔が手を離してくれないため、子をあやすようにぽんぽんと頭を叩いて宥める。
「俺の代わりなんていくらでも居る。主さま…今まで世話になった」
「…俺は…認めない。お前の代わりなんて…抜けるなんて許さない」
焔が一歩後退り、雪男を懸命に慰留する姿に歯噛みした。
「だから私は…」
「焔、お前はちゃんと主さまたちと話をして朧と夫婦になるのか、それとも父無し子にさせて悲しませたいのかよく考えろ」
ふっと笑った雪男にまだ信じられないという表情だった朔は再び眼光を放ち、いつもは隠れている牙を見せて威嚇した。
「誰が夫婦になどさせるか。氷雨、考え直せ」
「…もう疲れたんだ俺。主さま、焔を殺すのだけはやめてくれ。銀も正気でいられなくなるぜ」
皆に背を向ける。
もうこのまま去って、どこか遠くへーーこの国から離れるのもいいなと考えながら一歩踏み出そうとした時ーー
「お師匠様…っ!」
空の彼方から、魂から愛した愛しい者の声。

