主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「…はっ」


何かとてつもない違和感を覚えて微睡みから覚めた焔は、無意識に咄嗟に刀を抜いて暗闇に向かって構えていた。

都からかなり遠く離れた島国の宿屋ーーその部屋の片隅がぽうっと仄かに橙色に光る。

異次元から何かが現れる…

朔の追っ手が来たのかと身構えていると、ぐにゃりと曲がった空間から鬼灯の提灯を掲げた男がすうっと現れた。


「あなた、は…」


「焔、迎えに来ましたよ」


通称、鬼灯の君。

朔のすぐ下の弟で、神仏の加護を得て異質なる力を使い、救いを求める人々の救済にあたるため家業から一切手を引いている男だ。


「鬼灯様…」


「お前が行ったことを私は知っています」


ぎくりとして表情を強張らせると、鬼灯ーー輝夜は提灯を顔に翳してにっこりと笑って見せた。


「お前の行いで全てが狂った。歩かなくてもいい道に朧が進み、皆が悲しんだ。お前は正すべきではないですか?」


「…私は…失望されているのでしょうか」


誰に、とは聞かなかった。
焔がそれを恐れる相手はこの世にただひとりだから。


「さあ…それを確かめるために戻って来なさい。朧は現在家を出てとある町に潜伏しています」


「朧様が…?何故…」


「何故かはお前が一番知っているでしょう。焔、私を欺くことはできませんよ。とにかく戻りなさい。でないと私はお前の命を奪う」


輝夜の腰に提げた無銘の太刀が意思を持っているのか興奮するように鍔鳴りを起こした。


「朧様は…打ち明けたのですか?」


「いいえ、何も。雪男にも何も語らず出て行った。私は妹の悲鳴を聞いて帰って来たのです。故に妹の結末を見届ける義務がある。焔」


静かな語り口が余計に恐ろしく、焔は膝を折って刀を床に置いた。


「…はい」


「これ以上の悪足掻きはよしなさい。今まで見逃していましたが、もう限界です。終わりにしましょう」


何を終わらせるのか。
そして何かが始まるのか?


「心得ました…」


「お前の足ならば数日で戻れるでしょう。焔、待っていますよ」


輝夜が身を引くとまた暗闇に呑まれて姿が消えた。

どっと脂汗をかいた焔は、それまで息をしていないことに気付いて喘ぐように荒い息を何度も吐いた。