朝になって少し眠った後、人と同じように毎日三食摂りなさいと息吹から口を酸っぱくして言われていた朧は料理をして朝餉を食べた後、雑巾を手に掃除に取り掛かっていた。
拭いても拭いても綺麗にはならない。
畳は小太郎が新しいものに替えてくれたが、柱や壁は汚れている所もあって無心になって擦っていた。
…こつん。
外から何か音がして手が止まる。
小太郎ならさっき様子を見に来たから違うはず。
「だ、誰…」
気配はなく、勇気を出して少しだけ戸を開けるとーー足元に白い包み紙が置いてあった。
しゃがんで手に取り、そっと開けてみると…それは屋敷でよく食べていた大好きな金平糖だった。
「…お師匠様…」
早速居場所がばれている。
そしてやはり顔を出しに来ない。
来ないくせに来た証はこうして残して行くーー
きょろっと辺りを見たが雪男の姿はなく、包み紙を持って戸を閉めると、色とりどりの金平糖のひとつを口に入れてぽりっと噛んだ。
「私が…赤ちゃんができたことを明かすのを待っているの…?」
そんな勇気はまだない。
あまつさえ焔と一夜を共にしたことすら明かしていないのに。
「何度会いに来たって会えない…。私はもう、戻れないんだから」
幽玄町に。
優しい父母や祖父母、兄や姉たちにはもう会えない。
金平糖の優しい甘みが口の中いっぱいに広がってなんだか泣けてくる。
愛した男は生涯にひとりだけーー父と母のような素敵な恋物語に憧れていたが、どこでどう間違ったのか…
「間違えた場所なら知ってる」
…焔とちゃんと話をする機会もなく、子ができたことをも明かせず、父の居ないこの子が大きくなった時どう説明すればいいのか。
「…でもちゃんと産んであげるからね」
あなたに罪はないのだから。
拭いても拭いても綺麗にはならない。
畳は小太郎が新しいものに替えてくれたが、柱や壁は汚れている所もあって無心になって擦っていた。
…こつん。
外から何か音がして手が止まる。
小太郎ならさっき様子を見に来たから違うはず。
「だ、誰…」
気配はなく、勇気を出して少しだけ戸を開けるとーー足元に白い包み紙が置いてあった。
しゃがんで手に取り、そっと開けてみると…それは屋敷でよく食べていた大好きな金平糖だった。
「…お師匠様…」
早速居場所がばれている。
そしてやはり顔を出しに来ない。
来ないくせに来た証はこうして残して行くーー
きょろっと辺りを見たが雪男の姿はなく、包み紙を持って戸を閉めると、色とりどりの金平糖のひとつを口に入れてぽりっと噛んだ。
「私が…赤ちゃんができたことを明かすのを待っているの…?」
そんな勇気はまだない。
あまつさえ焔と一夜を共にしたことすら明かしていないのに。
「何度会いに来たって会えない…。私はもう、戻れないんだから」
幽玄町に。
優しい父母や祖父母、兄や姉たちにはもう会えない。
金平糖の優しい甘みが口の中いっぱいに広がってなんだか泣けてくる。
愛した男は生涯にひとりだけーー父と母のような素敵な恋物語に憧れていたが、どこでどう間違ったのか…
「間違えた場所なら知ってる」
…焔とちゃんと話をする機会もなく、子ができたことをも明かせず、父の居ないこの子が大きくなった時どう説明すればいいのか。
「…でもちゃんと産んであげるからね」
あなたに罪はないのだから。

