主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

引っ越し作業は直ちに行われた。

よっぽど顔が広いのか町外れにある平屋をすぐに用意した小太郎は、最低限の家具を運び入れて夕暮れには住める状態にまでになっていた。


「後はあんたが移動するだけだが…行けるかい?」


「はい…大丈夫です」


百鬼夜行までにはまだ時がある。

今移動しなければ雪男がここにまた現れるかもしれないため、朧は虫垂れぎぬ姿で顔を隠し、気配を消して辺りを見回して足早に宿屋を出た。

そこかしこには小太郎の仲間が見張っていて不審者が居ないかどうか見てくれている。

大通りからはずれて徒歩十分ほどの海が見える場所にその平屋はあり、入るなり固く戸を閉めてようやく一息ついた。


「風呂も厠もついてるから外に出る必要はない。食料は俺か仲間が調達してくるから、別嬪さんは追っ手に見つからねえようにな」


「小太郎さん、何から何まですみません。どう恩を返せばいいか…」


「いいっていいって。あんたみたいな別嬪さんひとり置いてく方がこっちが気にかかって仕事にならねえよ。じゃ、また朝来るよ」


当面の食料まで運び入れてくれた家の中は綺麗に掃除されていてすぐに生活ができる。

何不自由なく育った朧からしたらやはり清潔とは言い難かったが、しのごの言える立場にはなく、雪男がここに来ないことを願って明かりをつけた。


ーー海沿いにある平屋に明かりが灯った。

小太郎という男が仲間と共にこの平屋に朧を連れて来たこと…雪男はそれを隈なく見ていた。


「…ひとまず元気そうだ…」


輝夜が朧の命を心配していたことが昨日のようでなお不安だったが朧はやつれている様子もなく、小太郎という男によくしてもらっているらしい。


「こんな所にひとりで…あいつ、何をするつもりだ…?」


…まだ目の前に現れたりはしない。

しばらく様子を見てどう動くか朔たちと決めなければ。


「戻って来いよ、朧…」


魂が張り裂けてしまうから。