主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

気配を断つことなら朧よりも数段格上だ。

真っ青な髪は人の髪色ではなく妖の象徴とも言えるため、手拭いを頭に巻いて隠し、術で目の色を黒に変えた。

港町ーー潮の香りがきつく、山間に多く生息する妖は海にはあまり近付かない。

雪男はぶらりと町を見て歩くふりをしながら朧の気配を探っていた。

半妖なれど朧も妖。
夜に活動して朝に寝る習性は変わらないはず。
だとすれば気配を完全に断つこともできないだろう。

宿屋は町にいくつかあり、往来を行く住人たちの会話も耳に入って来た。


「えらい上品な美人が都から来たらしいね。訳ありらしいけど」


「小太郎が連れてた子だろ?そこの宿屋にいるらしいよ。都の話を聞いてみたいもんだね」


ーー見つけた。

それはそこそこ大きな宿屋で、辺りを見回して道に迷ったふりをしながら宿屋の二階の窓を見上げた雪男は意識を集中させて、微かにその軌跡を掴んだ。


「朧…」


輝夜の言う通りにいきなり乗り込んだりはしない。

だが自分がここに居ることーー迎えに来たことは伝えたい。


道を挟んで宿屋が経営している飯屋に寄った雪男は冷たい茶を注文して朧の気配のある二階の窓を見上げる。

…例え髪を隠して目の色を変えても雪男の容姿は目立って若い娘たちの視線が集まるため、長居はできない。

一気に茶を飲み干した雪男は目を閉じて曇天に意識を絞った。


すると、まだ季節外れの雪がちらほらと空から降って来て人々が驚きの声を上げる。


「ここに居るぞ、朧…」


もう一度窓を見上げて立ち去る。


ーー浅い睡眠を取っていた朧は、何かの気配を感じて目覚めた。

布団から起き上がってぼんやりしていたが外が騒がしく、窓を開けると…


「雪…?」


おかしい。
まだ雪が降る季節ではないし、それにーー


「お師匠様…?」


こんなことは雪男にしかできない。
雪男から逃げているはずなのに、足は勝手に動いて階段を下りると下駄も履かず裸足で宿屋を飛び出す。


「あの、お客様…?」


「外に…外に目立つ男の人が居ませんでしたか…?」


「ああそういえば若い娘たちが色男が居るって騒いでたような…」


ーー追って来た。
そしてここに居ることが知られた。

だが雪男の姿はない。


「お師匠様…どういうつもりですか…?」


そして私はどうすればいいの。