主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧の行く先は分かった。

雪男は朝になると早速港町まで向かおうと気負ったが、出て来た輝夜に窘められた。


「雪男、私からお願いがあります」


「なんだよ」


「朧を無理矢理連れ戻すようなことはしないで下さい。あの子が自らの意思で戻るまでは」


「んなこと言ったって…あいつは誰かも分からない男と一緒なんだぞ?」


あんなに美しい娘なのだから、普通の男なら誰でも喉から手が出る程欲しがるだろう。

日々が過ぎて行く毎にその危険度は増して、その小太郎とかいう男の腕に抱かれるような日も来るかも知れない。…そんなのは耐えられない。


「雪男。朧は誰にも肌を触れさせるようなことはしません。あの子にはあなただけですよ」


「だったらなんでまた去ったんだ!?…輝夜ごめん、お前が悪いんじゃないのに」


誰かに当り散らしたい気持ちは分からなくはない。
だが輝夜は今まで声を荒げたこともなく誰かを怒ったりしたこともない。

それでも雪男のやるせない思いを受け止めて静かに諭した。


「いいんですよ私のことは。あの子はあなたの姿を見れば逃げるかもしれない。そしてまた違う場所へ移って危険は増してゆく。それでもいいんですか?」


押し黙る。
何の因果か二度も朧に逃げられて、そしてなおまた逃げられれば心も折れる。


「…分かった。短気は起こさない。しばらくは様子を見るよ」


天から授かった力を持つ輝夜の助言を無視することはできない。

何とか不満を飲み込んだ雪男が屋敷から出て行くと、ふたりのやりとりを物陰から見ていた朔が出て来て輝夜の肩を叩いた。


「大丈夫か?」


「雪男も捌け口がなくて大変でしょうから怒鳴られる位は。ということで兄さんも家業に集中して下さい。朧はきっとその港町から動きませんから」


咎を受けない程度にそれぞれの歯車を少しずつ動かして正しい道へ。


人知れず奮闘する輝夜の頭を撫でた朔は、これ以上朧と雪男が悲しい道へ行くことのないように何かに祈りながら曇天を見上げた。