主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「昨晩は妖が大勢うろついてて寝付けなかったよ」


「家の中に入ってこないってことは…都の百鬼夜行の連中か…。何か探し回ってたような…」


ーー宿に泊まっている人々が狭い食堂で声を潜めて話をしていた。
朧は握り飯を小太郎と食べながら盗み聞きをしていたがそれは小太郎も同じだったらしく、欠伸をしながら少し鋭い目を和らげた。


「百鬼夜行の連中なら人は襲わねえ。何か探してるってなんだろな?」


「さあ…。小太郎さん、次はどこまで行くんですか?」


「ああ、街道から逸れて港町に行く。あんた魚は好きかい?」


「港町…魚は大好きです」


「じゃあ決まりだ。ここから人を乗せて港町まで行って一泊する。ほい、笠」


男との旅ーー気っ風は良いが一応警戒していたものの小太郎は部屋にも押し入ってこなかったし、信頼できるかもしれない。


「小太郎さん…港町に着いたらお話したいことがあるんです」


「へえ、ようやく身の上話をする気になったかい」


「ええ、少しだけ」


腹に子が居ることーー長旅になれば身体にも負担がかかるのでそこは明かしておいた方がいいだろう。


ーー朧が百鬼の追及を流れて隣町を出た頃、朔の元に戻った百鬼たちは恐れ戦きながら見つからなかったことを報告していた。


「…何の手がかりもなかったのか?本当に?」


「は、はい、主さま…」


「…」


静かに見つめてくる朔の逆に落ち着いた様が恐ろしく、黙っている朔の肩に輝夜が手を乗せた。


「兄さん、殺気が」


「ああ、すまない。もういい、ご苦労だったな。また頼む」


十六夜に朔に輝夜に雪男ーー錚々たる面々が表情を曇らせて同じ見解に至る。


「ひとりで行動しているとは思えん。きっと連れが居るはずだ」


「父様、俺も行って来ていいでしょうか」


「…ああ、頼んだ」


「主さま、俺も行く」


「平安町で足取りを辿った後隣町まで行く。行くぞ」


雪男の真っ青な目は伏せられた白い睫毛に隠れ、朔は雪男の肩を抱いて天叢雲を手に肩を竦めた。


「あのお転婆め、見つけたらこっぴどく叱ってやろう」


「…その前に、抱きしめる」


もう、逃げないように。