主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

牛車は男四人で周りを囲みながら進む。

定員は十人程で、気っ風の良い男は小太郎と名乗り、独りで心細そうにしている朧を気遣って牛車に乗ったり歩いたりしながら様々な話をしていた。


…総括するに、この男は各地を回っている運び屋らしい。
人も荷物も何でも用命があれば運び、各地に繋がりがあって顔も広い。
歳は二十後半といったところで、吊った目は一見強面だが、話すと懐が深く頼り甲斐があった。


「で、別嬪さん…名は?」


「…」


世間話には応じるが、真名は明かさない。
通り名もあるがそれを使うにはあまりに危険なため口を閉ざす他ない。


「ははあ、訳ありか…」


「すみません…」


「あんたみたいな別嬪だったら苦労も絶えないだろうよ。都から出てどこへ向かってんだい?」


「…都から遠く離れていればどこでも」


訳ありの者など星の数ほど居るが、小太郎の目から見て目の前の美少女は幼さはまだあれど妖艶で儚さもあり、男が放っておくはずがない魅力に溢れていた。


「まあどうでもいいさ。ひとまず隣町まででいいんだな?」


「はい」


気品もあり、いかにも金持ちの出だと踏んだが素性を話さないのは余程のことだろうと同情してそれ以上は尋ねなかった。


そうこうするうちに隣町まで着いた時には夕暮れで、柵に囲まれた町には妖を阻むための門があり、それが閉まる寸前になんとか滑り込んだ。


「ふう、危なかったなあ。別嬪さん、あんたはこっちだよ」


牛車に乗っていた人々が散り散りに居なくなり、先を行く小太郎の後ろをついて歩くと、恐らく町で一番大きな宿屋の前まで来て立ち止まる。


「ここは俺の取引先相手でな、安く泊めてくれるんだ。あんた何泊する?」


「早く離れたいので明日には発ちたいです」


「…そうかあ、かなり訳ありだなあんた…。まあいいさ、俺は南の方に用があるんだが、一緒に行くかい?」


思わぬ誘いに朧が顔を上げると、その表情に是と呼んだ小太郎が歯を見せて笑った。


「決まりだな。ま、これから妖が出る時間だ。戸を固く閉めて休みな」


「小太郎さん…ありがとうございます」


ようやく小さく笑った朧に照れた小太郎は背を向けて手を振ると、朧を宿屋の中へ導いた。