主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

あの夜焔に抱かれて、その際に子ができた可能性…それしかない。


もうふた月も月のものが来ていないことは間違いなく、抱かれたと知った時よりももっと大きな絶望感に襲われた朧は身体の震えが止まらず、床に横たわったままずっと腹を押さえていた。


「朧、とにかく大きく息を吸って吐きなさい。また過呼吸に襲われますよ」


「私…どうしたら…」


「…お前は何もかも独りで抱え込んでしまう。そんなでは自滅して取り返しがつかなくなってしまいますよ」


ーー天から与えられた力で全てを見通している輝夜には、焔とのことを話そうと思っていた。

だがこれだけは…これだけは話すことができない。

意図せず子を孕み、そして雪男に全てを話して許してもらい、雪男との間に生まれた子ではない子を産むのか?

そんな虫のいい話がどこにある?


「輝夜兄様…私は、お師匠様を愛しています」


「そうですね…それは揺るぎないでしょう」


「…許されないこともしました」


「…そうでしょうか。それはお前だけがそう思っているだけなのかも」


「お師匠様だけじゃない。誰から見ても私のしたことは許してもらえない…」


ひとしきり絶望した後ーー急に汗が引いたように心が落ち着いた。

それは自分自身でもひどく気持ち悪い現象だったが、ずっと手を握っていた輝夜は急に静けさを取り戻した朧を見て眉をひそめる。


「朧…?」


「…最初から…そうすればよかった」


「ちゃんと話しなさい。何がですか?」


「輝夜兄様は私がどうなるか知っているんですよね?だったら…察して下さい」


床から起き上がった朧は、足元をよろけさせながら自室を出て行く。


「お前の選択次第で道は逸れる。朧…お前は何を決めた?見えない…」


ーーこの子は意図せず宿った命。

だがそれを責めることはできない。

全てはあの夜犯した過ちのせい。


「大丈夫だよ…一緒に生きてこうね…」


雪男に会いたい。

この昔から変わらない想いはいつでもあなただけのもの。

あなたに全てを捧げて生きてゆく。