主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

その日の夕方のことーー


「か、ぐ、ちゃん」


「これはこれは母様じゃないですか」


娘の様子が心配でたまらなくて屋敷を密かに訪れた息吹は輝夜を見つけると、玄関でそっと声をかけた。


すぐに出て来た輝夜は息吹の来訪を知っていたのか驚かず、その場で正座して頭を下げた。


「長い間顔を出しにも行かず申し訳ありません」


「ううんいいの、かぐちゃんが頑張ってること知ってるから」


気配を感じたのか朔も出て来て頰を緩める。

兄弟姉妹、皆息吹には頭が上がらない。
過保護でもなく突き放すでもなく、いつも見守ってくれる存在で、朔もその場で座って頭を撫でてくる息吹に嬉しそうな顔を見せる。


「いつ帰って来たの?朧ちゃんとは仲良くできてる?」


「帰って来たのはつい最近ですが、妹とはそれはもう大変仲良しになりましたとも。私が戻ってきたのは妹のためですから」


息吹が大きな目を瞬かせる。

使命を背負っていることは重々承知していたが、まさか朧のためとは思わず、転げるように駆けてきた朧を抱きしめて顔を覗き込んだ。


「朧ちゃん、元気そうで良かったっ」


「はいっ。母様あの、私の話を聞いてもらえますか?」


「うんもちろん。ね、朔ちゃん、お勤めに出る前にみんなでご飯食べよ。母様が作ってあげる」


「それは楽しみにしています」


兄弟妹から歓声が上がり、代わる代わる息吹には 頭を撫でられてはにかんでいると、奥から白兎がひょっこり顔を出した。


「あ、お客様が居たんだね。はじめまして、息吹と申します」


「は、はじめまして…」


そう答えたのが精一杯。

朔たちの母であり、あの難攻不落と呼ばれた先代に惚れられた、人。

妖と人を繋いだ、息吹。


「あなたもよければ一緒に。そのお姿は雪女さん…だよね?冷たいお料理作るのは雪ちゃんで慣れてるから遠慮しないでね」


この屋敷には常識では計り知れないものが多すぎるーー


息吹の前で子供のような笑顔を見せている朔を目に焼き付けながらうっとりしていた。