主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

あの夜焰に抱かれたーーそれは同意の元ではなく、酒に酔ってしまい、焰を雪男と勘違いした末に起きてしまった過ち…


まとめればそうなる。
だがこれをそのまま雪男や朔たちに告げたら…焰はどうなってしまうのだろうか?


朔は温厚だが、火がつくと静かに烈火の如く怒り、誰も止められなくなってしまう。
輝夜は…このことを知っているのかもしれないが、直接言及されたことはなく、静観の立場を崩さない。


雪男は…どんな顔をするだろうか。
焰に危害は加えないだろうか。
最も穏便に済む方法は、何なのだろうか。


「帰りましたよ」


朝方ぼんやり考えていると輝夜が先に降り立ち、続いて朔、そして猫又に乗った白兎が降りた。

…白兎…朔をちらちら見ては目が合うと逸らし、またちらちら…明らかに様子がおかしいが、朔はそういった視線に慣れているため構わず朧の隣に座った。


「兄様お帰りなさい。頰に血が…」


「ああ、俺のじゃないから平気。体調はどう?」

朧は手拭いで血を拭ってやりながら、ふわっと笑った。


「兄様たちの助言を頂いて私…確認できました」


「うん」


「お師匠様は私のこと…待って下さるそうです」


「そうか…それは良かったね。ああひと安心」


ほっとした柔らかい表情を見せた朔に抱きつくと勢いあまって畳に倒れ込み、珍しく笑い声を上げて朧を抱きしめる。


「俺の最大の悩みがこれで解決しそうだよ」


「兄様ご迷惑をおかけしてごめんなさい」


「可愛い妹のためだ、何でもする」


「兄さん…私も抱きついていいですか」


「お前は大きいから駄目。雪男はどこに?」


朧が庭の奥を指すと、日課の鯉の餌やりをしている姿が見えた。

どうからかってやろうかーーにやりと笑った朔が動く。

白兎はずっと朔の一挙手一投足を目で追っていた。


「ああいやな予感だ。私の兄さんが」


「…え、白兎さん、まさか…」


輝夜が眉間を指で押さえながらうなる。


「仕方のないことです。兄さんは美しいですからね。抱かれたいほどに」


時折妙な発言をする輝夜とふたり、ぽうっとしている白兎を観察した。