主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

輝夜が居間に戻って来てしばらく経つと朧も自室から出て来た。

輝夜は朧がどんな風だったか語らなかったため様子が分からなかった朔は、隣をぽんと叩いて促した。


「おいで」


「兄様あの…私の嫁ぎ先の件ですが…」


「うん」


「私には好きな方が居るのでごめんなさい。お断りして下さい」


「その好きな方っていうのはお前が前から好きな男かな?」


ーー誰もがその美しさに目を合わせることができない朔の黒瞳をひたと見据えた朧は小さく頷いて庭で輝夜と談笑している雪男を見た。


「はい、変わっていません」


「お前はあれの想いを受け入れなかった。その理由はちゃんと話すんだね?」


「…はい。ちゃんとまとまるまで少し時間を下さい」


…これで肩の荷が降りるーー


大きく息をついた朔は朧の脇を抱えて膝に移動させると、絵もいわれぬ微笑でそのあたりに居た百鬼たちの腰を砕けさせた。


「そうか…それは構わないよ。よく決心したね」


…あの男を忘れることなどできない。

愛し愛されるために必要なだけの努力をして、失ったであろう信頼と愛を取り戻したい。


「…お師匠様は今好きな方は…」


「さあ、どうかな、本人に聞いてみるといい」


頰を赤らめて俯く朧に目を細めていると、ふくれっ面の雪男と輝夜が戻って来た。


「なんかいちいちやらしい光景なんだよな」


「兄さんはやらしいですからね」


「誤解を招くようなことを言うな。ところで白兎はどうした」


「ここに居ますわよ…」


廊下の方からそっと声をかけて来た白兎に皆が驚く。
あまりにも美麗な者たちの輪の中に混じることができずもじもじしていた白兎を雪男が呼んで傍に立たせると、ぽんと頭を叩いた。


「お前今日は百鬼夜行に連れてってもらえ。輝夜が面倒見てくれる」


「え…お兄様は?」


「俺は朧の守り役だから」


「娘さんは私が全力で守りますからね。ふふ…」


含み笑いをして妖艶に笑む輝夜は、憑き物が落ちたようにすっきりした表情の朧を見て満足げに頷く。


未来は、変わらない。