主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

一方、池の前でやや放心状態の雪男の頭を背後から気配を消して鷲掴みにした朔は、驚いて言葉も出ない雪男にため息をついた。


「お前はこんなに世話の焼ける奴だったか?」


「え…、あ、いや、ぼーっとしてた…」


「朧の婿候補が気になって仕方ないと素直に言え」


「ああ…まあ…そうなんだけど、俺はその婿候補から外れた身だからさ」


ようやく苦笑した雪男の隣に立って池の鯉を見つつ、朔は己の真意を語った。


「俺はお前以外の婿候補は想定していない。つまり色良い返事をするつもりはない。朧が嫁に行き遅れたらお前にやる」


「ははっ、何だよそれ。朧が聞いたら怒るぞ」


「まだあたたかく感じているんだろう?それが続く限りは待っていてやってほしい。白兎は俺が何とかして追い返す」


朔が心を尽くして接してくれるのは素直に嬉しい。
先程の朧の態度からは、嫁になど行きたくはないと全身で拒絶していた。


「あいつさ、なんかずっと隠してることがあってさ…待ってるんだけど中々話してくれなくて。それが原因だよな?」


「そうだな、それが問題だ。輝夜が今様子を見に行っているが…あれは知っているかもしれないな」


不思議な力を持つ輝夜なら知っているかもしれないが、何かしらの制約があるのか輝夜は未来を語らない。

つまりは己で聞き出すしか術はなく、雪男は改めて朔に向き合うと、心情をさらけ出した。


「俺は今でも朧を嫁さんにしたい。あいつがまだ俺を好いてくれているなら…そうわかったら、俺に朧をくれ」


「だから最初からそう言っているだろうが。悪いがうまく収まったとしてもお前は百鬼から外さない。今と同じだ」


当然だろうと言わんばかりに胸を逸らす朔が童の時のようで、雪男はようやく肩の力を抜いて朧の部屋に目をやる。


「あいつ下らないことでくよくよ悩んでるんなら、こっ酷く叱ってやるからな」


そして言ってやろう。


どんなお前でも愛している、と。