主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「もうっ、どうして笑ってらっしゃるの!?」


「いやだってお前が主さまにぽーっとしてるからおかしくてさ」


「女なら誰だってああなります!でも私はお兄様一筋ですからね!」


ーー雪男と白兎が痴話喧嘩をしているように見えた朧は、花に水をやりながらその会話を盗み聞きしていた。

そんなことはしたくなかったのにやはり気になってしまい、表情は変えず黙々とこなしていると、縁側にいた朔が大量の文に囲まれて途方に暮れている姿があった。
目が合うと手招きされたので隣に座ると、朔がそのうちの一通を朧に差し出した。


「お前宛に」


「私に…ですか?どなたから…」


「名のある鬼族の家の者からだ。是非お前を嫁に欲しいらしい」


…朧の目が点になる。
朔は呆れたように文を見回して肩を竦めた。


「実は前からこういった文は来てたんだけど、ここ最近は特に多い。お前が百鬼夜行に出た頃位からかな」


「え、でも私…」


「朧、雪男とどうしたい?もう進展の仕様がないなら、どこかに嫁ぐという選択も俺はあると思う」


ーーそれは朔なりの発破だった。
好いた者同士が結ばれないーーそんなおかしなことがあってたまるかと、黙る朧の肩を抱いて優しく問いかける。


「白兎は氷麗が仕掛けたんだろうし、雪男は白兎を受け入れるつもりはない。それはつまり何を意味しているか分かるかい?」


「…私は……」


「うわっ、なんだこの文の数……え…」


深刻な朧の顔を見て心配になった雪男が一通の文を手にして読んだ。
それは年頃になった朧を嫁にと熱く訴えかけている内容で、全ての文がそうであると知ると、乾いた笑いが漏れた。


「ははっ、なん…だよ…これ…」


「見ての通り恋文だな。随分待たせているからそろそろ返答をしないと」


「返答って…」


「朧、急かしているんじゃないからね。こういった話が来ているよ、程度に考えておいて」


「兄様…はい…」


雪男ではない誰かの元に嫁ぐーー

そんな信じられない現実を前に、朧も雪男も固まっていた。