主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

逢魔時になると幽玄町も平安町からも人の姿が消える。

庭に集結した数えきれないほどの百鬼を見た白兎は縮こまり、特に異彩を放っている銀と輝夜に圧倒されていた。


「なんてお綺麗な…」


腰に提げている太刀は歴戦の末に切れ味が増し、妖刀と言っていい妖気を放ち、またふたりとも平然としていた。
最も禍々しい妖気を放っているのはーー


『くくっ、柔らかそうなのが居るな』


「客人だ。惑わしたりすれば刃こぼれさせてやる」


『おお怖い。どちらかといえばお前の妹の方が好みだが』


朔が天叢雲に視線を落すと途端に黙り、銀が前に進み出て刀を腰に提げた朔に久々に話しかけた。


「朔」


「俺が悪かった」


「な…何がだ?」


「お前は一切事情を知らないのに俺はお前を遠ざけた。許せ」


固まる銀の肩をぽんと叩いた朔は、頭の上のふかふかの両耳を輝夜のように揉んで無邪気に笑いかける。


「あれの沙汰は悪いが厳しく罰する。構わないか」


「ああ。息子が何をしたか知らんがお前の好きなように」


耳を揉み続けても怒らない銀の態度に輝夜が抗議の声を上げる。


「何故私だけ怒られるんですか」


「お前は昔から問題児だったが朔は違う。人徳の差と思え」


ーー和やかな雰囲気に縁側で猫又とじゃれていた朧の頰も緩む。

焔の行方は気になるところだが…見つかってほしくないという思いもあった。


「朧、風邪引くからこれ肩にかけとけ」


「はい。お師匠様は白兎さんが居る間ずっと行ったり来たりするつもりですか?…まるで間男みたい」


最後はぼそりと呟いたつもりだったが羽織を肩にかけてやった雪男の耳に届き、軽く頭を叩かれる。


「しつこいなお前も。あれはただの知人。許嫁だかなんだか知らねえけど決めるのは俺だ。…あったかくなりたい女は…俺が選んで決める」


ーーあったかくなりたい。
雪男の体温をあたたかく感じることができたのは、もうだいぶ前のこと。


「…そうですね…私もあったかくなりたい…」


周囲に悟られない程度に見つめ合っていると、白兎が目敏くそれを見つけて間に割り込んできた。


「お兄様、豪華な百鬼夜行ですね!紹介して下さる?」


「あ、ああ、」


朧が立ち上がり、百鬼に囲まれている朔の元へ向かって離れると、白兎がにたりと笑った。

たおやかな朧ーー雪男には近付けまいと敵意を露わにして睨みつけた。