白兎に与えられた部屋は広く、山姫から一通り注意事項などを聞いてひとりになると、朔の恐ろしさを改めて認識していた。
綺麗で優しくて強くて恐ろしいーー
百鬼夜行の主とはかくも圧倒的なものなのか。
声や仕草ひとつも鳥肌が立つほど美しく、雪男を想い続けていた白兎にとって衝撃をもたらす存在に成り果てた。
「やだ私はお兄様が好きなんだから」
氷麗から夫婦にと言われた時どんなに嬉しかったか。
しかも百鬼夜行の主の側近にまで上り詰めたのだから自慢の夫になること間違いない。
ーー美しい庭園に出た白兎は、心地よい風を部屋に入れるため多くの部屋の障子が開けっ放しになっているのを眺めた。
そのうちの一つーー床に寝かされた朧の傍に座っている雪男を見つけると、その表情に呼び止めようとした言葉が喉が引きつって出てこなくなった。
…あれは愛しい者を見つめる愛情の眼差し。
氷麗は多くを語らなかったが、雪男と朔の妹が只ならぬ関係になりかけたというのはかろうじて聞き出していた。
「お兄様…まだ…お好きなの…?」
朧は眠っている。
だが白兎はその衝撃的な光景を目の当たりにして息を飲んだ。
「手を…握ってる…?」
ーー雪男は朧の投げ出された細い手を握り、ただただ寝顔を見ている。
雪女以外にあのように手を繋いでも痛みを感じずにいられるのは…
「まだ…心が通っている、と…?」
雪男だけを想い続けてきた白兎の目に涙が浮かび、嫉妬に髪は逆立ち、形相は美少女とはとても言い難いものに変わる。
「駄目ですわよお兄様…半妖とだなんて絶対に駄目…」
朔も半妖だがあの血筋の者に美しくない者は居ない。
明るくて気さくな雪男に憧れて憧れて、ようやく実るのだと浮ついた気持ちでここまでやって来たのにーー
「引き裂いてやる…」
「何をだ」
気配を完全に消した何者かに背後をとられた白兎が飛び退る。
そこには何故かとびきり笑顔の朔が立っていて、白兎の顔が意図せず真っ赤になる。
「い、いえ、何も…」
「そうか、ならいい。俺もさっきは言い過ぎた、すまない」
ふいっと背中を見せて部屋に入って行った白兎が呆然と見送る。
「…なんか春を売った気分だな…」
朔はぼやきながら朧の部屋に向かった。
綺麗で優しくて強くて恐ろしいーー
百鬼夜行の主とはかくも圧倒的なものなのか。
声や仕草ひとつも鳥肌が立つほど美しく、雪男を想い続けていた白兎にとって衝撃をもたらす存在に成り果てた。
「やだ私はお兄様が好きなんだから」
氷麗から夫婦にと言われた時どんなに嬉しかったか。
しかも百鬼夜行の主の側近にまで上り詰めたのだから自慢の夫になること間違いない。
ーー美しい庭園に出た白兎は、心地よい風を部屋に入れるため多くの部屋の障子が開けっ放しになっているのを眺めた。
そのうちの一つーー床に寝かされた朧の傍に座っている雪男を見つけると、その表情に呼び止めようとした言葉が喉が引きつって出てこなくなった。
…あれは愛しい者を見つめる愛情の眼差し。
氷麗は多くを語らなかったが、雪男と朔の妹が只ならぬ関係になりかけたというのはかろうじて聞き出していた。
「お兄様…まだ…お好きなの…?」
朧は眠っている。
だが白兎はその衝撃的な光景を目の当たりにして息を飲んだ。
「手を…握ってる…?」
ーー雪男は朧の投げ出された細い手を握り、ただただ寝顔を見ている。
雪女以外にあのように手を繋いでも痛みを感じずにいられるのは…
「まだ…心が通っている、と…?」
雪男だけを想い続けてきた白兎の目に涙が浮かび、嫉妬に髪は逆立ち、形相は美少女とはとても言い難いものに変わる。
「駄目ですわよお兄様…半妖とだなんて絶対に駄目…」
朔も半妖だがあの血筋の者に美しくない者は居ない。
明るくて気さくな雪男に憧れて憧れて、ようやく実るのだと浮ついた気持ちでここまでやって来たのにーー
「引き裂いてやる…」
「何をだ」
気配を完全に消した何者かに背後をとられた白兎が飛び退る。
そこには何故かとびきり笑顔の朔が立っていて、白兎の顔が意図せず真っ赤になる。
「い、いえ、何も…」
「そうか、ならいい。俺もさっきは言い過ぎた、すまない」
ふいっと背中を見せて部屋に入って行った白兎が呆然と見送る。
「…なんか春を売った気分だな…」
朔はぼやきながら朧の部屋に向かった。

