主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧が足早に廊下を行き、その後を雪男がついて行く。

想像だにできなかった白兎の来訪のせいで、せっかく朧と和やかな関係をまた築くことができるのではと期待していた雪男は苛立ちを隠せなかった。


「あのさ朧…白兎は餓鬼の頃から知ってるんだ。だから何とも思ってな…」


「私のことは赤子の時から知っていますよね」


切り返されてぐうの音も出なくなった雪男は、咄嗟に朧の肩を引いて無理矢理振り向かせた。


「白兎と俺が…夫婦になってもいいのか?」


「…っ、どうしてそんなこと聞いて…」


「俺はあいつと夫婦になんか考えたことねえよ。今後も有り得ない」


背の高い雪男を見上げた。

真っ青で綺麗な目は切実に真実を訴えかけていたし、朧自体も氷麗が仕掛けてきたことであって雪男が悪いのではないことくらい分かっている。


ただこの身が汚れたことで、雪男が今も自分を想ってくれていたとしてもーー自身が許せない。


「…そうですか」


「ああ。それだけは分かっててくれ」


「…はい」


ーー気分が悪い。

綺麗な男だから頭を悩ませる女の影など掃いて捨てるほど今後も現れるだろう。

…このままこの屋敷を出て他の男の元になど嫁げるのか?

それとも真実を打ち明けて、汚れた自分を認めてもらうために躍起になるべきか?


「…気分が悪い…」


「!朧、ごめん」


「きゃ…っ」


顔色の悪い朧を抱きかかえた雪男が足早に朧の部屋へ向かい、すぐ傍にある真剣に心配してくれている雪男の表情に胸が高鳴る。


「…このまま…」


「え?今なんか言ったか?もうすぐ着くから頑張れ」


このままずっとこうしていられたらいいのにーー

その言葉を飲み込む。


ーー一方、席を立った朔が台所で水を飲んでいると、追いついた輝夜に腹を抱えて笑われていた。


「兄さん、中々の迫真の演技でしたよ」


「ん、まあ、あれ以上やると失神させてしまうからな」


朧を思い、雪男の複雑な心情を慮っての朔の対応は輝夜に見抜かれていたが他の者はどうやら騙せたらしく、首を鳴らして笑った。


「しかし許せませんね」


「何が」


「あの娘さんですよ。雪男を好いていると言いながら兄さんにもしっかり色目を使っていました」


「いや別に興味ない」


「私は騙されませんよ。この際いびって追い出しましょうか」


…冗談には聞こえない輝夜のしたり顔に軽く頭を叩いて叱った朔は、朧の部屋の方を見た。


「うまくいかないものだな…」


男女の仲とは。