主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

上座には朔、隣には輝夜と朧。

そしてその前に目が泳ぐ雪男と白兎が緊張の面持ちで座っていた。

とにかく朔の圧倒的な美貌と圧がすごい。
目を合わせるとその吸引力に引き込まれてしまうことを予感していた白兎は、絶対に朔とは目を合わすまいと俯いていた。


「…で?」


「俺もよく分かんねえ…」


「いやね私たちもその娘さんが突然訪れたものだから何も聞き出せていないんですよ」


「氷麗様に幽玄町のお屋敷に行ってお兄様と会って来なさいと仰せつかりました」


腕を組んだ朔が白兎を穴が開くほど見つめる。
雪男に惚れていると言えど誰も朔に逆らうことはできないと言わしめる意味を痛感した白兎は、恐ろしさも相まって雪男の袖を握り、朧の表情を密かに歪ませた。


「遊びに来ただけだろ?」


「いえ、お兄様と夫婦になることを氷麗様がお認めになったのです。ああこの日をお待ちしていました…!」


錯乱と輝夜が顔を見合わせてちらりと隣の朧を盗み見た。

…握りしめた拳は真っ白になっているし、同じように顔も白く、精神状態があまり良くないことがすぐに分かる。

それよりも何よりもーー


「氷麗が…雪男と夫婦になるように、だと?」


突然ひんやりした空気が部屋を支配した。

輝夜は静かに目を伏せ、朧は非難を込めるでもなく雪男を見据えて、雪男を固まらせていた。


「主さま…?」


「雪男が誰のものだか知らないようだな。これは俺の側近だ。例え母親の命だとしても契約によって俺と雪男には深い縁が結ばれている。…故郷に戻して夫婦だと?ふっ、片腹痛いな」


口角を吊り上げて笑む朔が壮絶に恐ろしくて美しくて、白兎は全身恐怖に支配されて唇を震わせた。


「で、ですが…」


「しばしの滞在は許すが祝言がどうだとか二度と俺の前で口にするな。雪男は今俺の妹の守り役についている。邪魔立てをするならば命の保証はしない」


すっと立ち上がった朔が客間を出て行き、温和な朔の悋気に触れたことは雪男を驚かせて腰を浮かす。


「いえここは私が。あなたは朧を部屋へ。娘さん、あなたには同じく側役の山姫を紹介した後部屋を用意しましょう」


輝夜が白兎を促して、なんとか立ち上がった白兎がふらふらと出て行く。


「…朧…」


「部屋に戻ります」


その冷たい声が胸に刺さった。