主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

反物屋から出たふたりは団子屋に行き、大きな赤い傘の下で川を眺めながら饅頭を食べていた。

朧は半妖なので本来人のように食事をしなくてもいいが母の息吹は人なので毎回食卓を囲んで三食とっている。
雪男は生粋の妖なため食事は必要ないが、味覚はあるし人の真似をして楽しむのも一興だと思っているので苦ではない。


「この後どうするんですか?」


「そろそろ研ぎが終わるから戻ろう。主さまに団子でも買ってくか」


ふたりを羨望の眼差しで皆が見ていた。
市井には雪男も助言をしたり、また誰にでも分け隔てなく気さくに話す性格なので皆に好かれている。

幽玄町を仕切る朔は市井に手腕を発揮し、町民同士の争い事は皆無で、悪事を働くとどうなるかーー皆が皆知っていた。


「着物、ありがとうございます」


「いやあれは主さまの金だしな。俺は見立てただけ」


「それでも…嬉しかった」


雪男が真っ青な目を瞬かせる。
目を合わすと何を口走ってしまうかわからない朧は慌てて立ち上がり、雪男の袖を引っ張って急かす。


「い、行きましょう」


「ああ、ちょっと待……」


ーーふいに雪男が弾かれたように屋敷の方角をきっと見つめた。
その鋭い眼差しにどきっとした朧が食い入るように見ていると、雪男は朧の肩を抱いて足早に歩き出す。


「お師匠様?」


「何か来た。早く戻ろう」


主さまなら天叢雲がなくても大丈夫だろうけど、と呟いた雪男は研ぎ師から受け取った後、朧が疲れない程度に先を急ぐ。


「な、なんですか?」


「幽玄橋を通って来てるから敵じゃない。なんか…知ってるようなそうでないような…よく分かんね」


遠くに屋敷の門が見えた。

そこまで来ると、雪男もそれが何者だか悟り、頰を緩める。


「おいおい、本気かよ」


「知り合い…ですか?」


「うん、まあな」


親しげな声色に何故か不安が襲って来た。

その朧の予感はーー当たることになる。