主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

幽玄町の商店街は平安町に負けないほど活気がある。
幽玄町の住人は平安町に通じる唯一の橋を渡る事ができず、飲食物、武器防具の研究を重ねた結果、独自の文化を形成していた。


『おい、もっと丁寧に扱え』


「うるさいぞ黙ってろ。次喋ったら主さまに言いつけるからな」


暴れることのないよう朔が厳重に術を施した天叢雲剣がその鶴の一声で黙る。

朔の用事とは、御用達の研ぎ師に天叢雲を研いでもらうためで、雪男と朧は賑わう商店街の中を研ぎ師の所まで歩いて向かっていた。


「さすがにちょっと涼しくなったよな」


「番傘の出番ももう終わりですね。…あっ」


すれ違い様肩がぶつかってよろめいた朧の着物の袖を雪男が握り、その手を自身の着物の濃緑の帯に導く。


「ここ持ってろ。もうちょい歩くぞ」


「は、はい」


ーー主に女たちが歩く雪男を好意の目で見ていた。

当の本人は朔と同じで目を合わせると刃傷沙汰に発展したりの過去があるので目を合わすことなく全く気にせず歩き続ける。

真っ青な目に真っ青な髪ーーそしてその美貌。
それだけで雪男が何者であるのかを皆が知っていた。
また朧もすらりと背が高く、先代によく似た少しきつめに見えるがまだ幼さの残る美女で、ふたりを見かけた住人たちは嫉妬を通り越してため息まじりに見つめる。


「着いた。ちょっとこいつ預けてくるからそこに居ろよ。動くなよ」


…相変わらずの心配性。
雪男と町を歩けただけで満足の朧が幸せを噛み締めていると、店から雪男が出てきた。


「少し時間かかるらしいからぶらっとするか。きつくないか?」


「え…いいん…ですか?」


「ああ、だって今夜の百鬼夜行にあいつ要るだろ。そうだ、反物屋に行こう」


雪男が日差しを見つめる。
透き通った青の泉に反射する美しい光が朧の目に焼きつく。


「朧?」


「いいえ何でも。何か買ってくれるんですか?」


「おう、主さまの金だけどな。お前に似合うのを見立ててやるよ」


…本当に逢瀬のよう。

久々に心から笑った朧の笑顔を見た雪男の目も和らぐ。

ーーすぐそこに何者かの足音が迫っていることも知らず、ふたりは反物屋に向かった。