主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「で?朧と何があったか洗いざらい話してもらおうか」

しばしの仮眠を取った後居間で茶を飲んでいた雪男の背後から聞こえた声にむせながら振り返る。


「ぬ…主さま…いや…別に報告するようなことは何も…」


「俺の目を見ろ」


目の前に座ってにっこり微笑んでいる朔の笑顔は昇天ものの出来栄えで、強い者に服従してしまう性の妖にとって朔はある意味天敵のようなもの。


「いやちょっとそれは勘弁して…」


「おおよそ見当はつくが……ちょっと使いを頼まれてくれるか」


朔から珍しく使いを頼まれた雪男は追及が終わったことにほっとしてつい笑顔になった。

それを見た朔はーー


「朧と一緒に」


「…え…ちょ…主さまそれは…」


「やましいことが何もなければ問題ないだろう?朧に似合うものもついでに何か仕立ててきてくれ」


雪男をいじることにかけては一に十六夜、二に晴明、三に朔が長けている。

手に金の入った巾着を握らされ、うっかり目が合ってしまった雪男は逆らうことができず、叫びながら立ち上がる。


「あー、もー!俺を困らせるなよな!」


「お祖父様から朧を楽しませるようなことをしろと言われている。お前がやれ」


「分かったよ連れてけばいいんだろ。主さまの用事のついでだからな」


「幽玄町は俺の支配下にある。何かあれば呼べ」


何かあるわけない。
朔の代になってからは妖の侵入を許したことはなく、また雪男や輝夜の名はすでに各地に轟いていたため、わざわざ命の危険を侵してまで浸入しようとする者は居ない。


「朧、身体が辛くなかったら出かけないか?」


自室で本を読んでいた朧が顔を上げた。

それがとても嬉しそうだったので、雪男は立ち尽くした。


「え…いいんですか?一緒に?」


「…ああ、外の空気吸った方が良くなるかもだしな」


「行きますっ」


まるで逢瀬のようーー

2人はそう思いつつ、だが決して口にすることなく屋敷を出た。