主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

それから朝まで雪男は部屋に戻って来なかった。

…ぞくぞくしてしまう。
あんなきれいな男に迫られそうになって、身体の芯から震え上がるほどの喜びを感じてしまう。

結局その後朧は輝夜の言いつけ通り寝ずに朝まで過ごし、酒のせいにして逃げていた雪男は朔たちを出迎えて平静を装っていた。


「朧が昨日風呂場でのぼせてさ、大変だったんだぜ」


「そうか。怪我は?」


「脚をちょっとな。治療したから大丈夫だろ」


朔が朧の部屋に向かい、続けて降りてきた輝夜は雪男の目を穴が開くほど見つめて焦らせた。


「…なんだよ」


「…私の妹にいやらしいことをしましたね?」


「はっ?…………してねえし」


「嘘はいけませんね。私を欺けるとでも思ったんですか?」


…輝夜の目にどこまで先が見えているかも分からないが、雪男は髪をがりがりかいて縁側にどすっと座った。


「拷問だろありゃ」


「そうですね、あなたにとっては生き地獄でしょう。で、耐えたわけですね?」


「…ああ。だって俺ら、もう別れてるわけだし」


「別れる、ね。…あなたはどこまで耐えられるのでしょうか」


輝夜が何気なく呟いた言葉の意味が分からず困惑していると、にこっと笑った輝夜は髪を高い位置で結んで手を振った。


「つい口が滑りそうになりました。風呂に行ってきます」


「匂わせやがって」


輝夜が赤子の頃から知っている仲なので互いに怒ったりはもうしない。
軽口を叩きつつ雪男は大きく深呼吸をして朧の部屋に向かう。

枕元にはなんとも優しげで妹にしか見せないのではないかという笑顔の朔が居て、出入り口で佇んでいると朧と目が合った。


「お、お師匠様…」


「顔色だいぶいいな。飯食って輝夜に寝付かせてもらえよ。脚の怪我もちゃんと診てもらえ」


「…はい」


なんとも気まずい空気に朔の目が光り、雪男は慌ててその場から逃げ出して自室に戻る。


「……あれは…求められたのかな」


目を閉じた朧。

求めているくせに、拒絶するその意味はーー?