主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朔と輝夜がいつものように百鬼夜行に出たのを見送った朧は、少し身体が冷えたので着替えを手に風呂に向かった。

…雪男は残って銀と何やら軍議をしていたため、朧は声をかけずに脱衣所で着物を脱ぎ、熱い湯を被って身体を擦る。


「…すっかり消えちゃった」


胸につけられた唇の痕はもう跡形もなく、物悲しさに襲われそうになって頭に湯をかけて丁寧に髪を洗い、湯に浸かった。

ーー朔の言うように真実を打ち明けたら雪男はどんな反応をするだろうか?

…母からは一生に一度心から好きな男にだけ心も身体も許しなさいと教えられて…

もうそれは叶わぬこととなった今、軽蔑されるだけではないだろうか?


「…言えるわけないよ…」


身体を許してしまった焔は行方不明で、あの夜の詳細は怖くて何も聞けていない。

だが悪夢に見るあの内容は…


「私…自分を許せない…」


長い間湯船に浸かって考え事をしていた朧は、目がちかちかしてそろそろ上がろうと立ち上がる。

すると立ちくらみがして膝を強打して崩れ落ちた。

吐き気がして、目の前は真っ暗。

息も荒くなり、叫ぼうにも声が出ずもがいているとーー


「…朧?大きな音がしたけど…どうした?」


戸の向こう側から雪男の声がした。

涙で視界が滲んで爪を立てて床を掻いていると、異変に気付いた雪男が息を呑んで切羽詰まった声を上げた。


「朧、開けるぞ!」


全裸だが隠す余裕もない。

戸が開く音がして、雪男の足元だけが見える。

一瞬立ち尽くした雪男が身を翻して脱衣所に戻り、浴衣を掴むと朧を抱き起こしてその浴衣を着せるのではなく身体を包んで抱き上げた。


「のぼせたのか?それとも過呼吸か!?」


「お師匠…様…」


まともに会話ができず重たい瞬きを繰り返す朧を抱えたまま足音も高く部屋へ向かう。

そんな切迫した状態の最中でも、雪男の腕に抱かれているーーそれがとても嬉しくて、幸せな気分のまま朧は意識を失った。