主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

悲しみが募ると過呼吸が起きてしまうので、輝夜は長居を避けてまだ戦い続けている雪男から離れてその場を後にした。


顔を胸に埋めたままずっと黙っている朧の頭を何度も撫でているうちに落ち着きを取り戻し、その頃には幽玄町に着いて朧を玄関で下ろして手をひらひら振った。


「私は少し用があるのでまた後で」


「はい。輝夜兄様、ありがとうございました」


「あれ位お安い御用ですよ」


朧と別れた後輝夜が向かったのは平安町に住む祖父の晴明の元だった。
来訪を察知していたのか観音開きの扉が開き、招き入れられた輝夜は童子の式神に誘われて出迎えに現れた晴明に笑顔を向けた。


「お祖父様、お久しぶりです」


「ああ本当に久しぶりだねえ。輝夜、鬼灯は赤く実ったかい?」


「まだまだ先になりそうですよ。お祖父様、お話があって来たのですが…もうお分かりですよね?」


狩衣ではなく浴衣に羽織といった普段着の晴明は、うっすら笑って仕事場に通すと腰を下ろした。


「焔のことだろう?息吹や銀から再三助言を求められるが、私もあの子の居所には苦戦していてね」


「いえ、それでいいですよ。焔はしばらくの間野放しに」


ーー輝夜には見えないものが見えている。

百鬼夜行を率いる直系の一族の者でありながら異質なる力を与えられ、慕う長兄の朔から離れざるを得なくなった不運の星回りの持ち主だが、本人は不平を述べたことはただ一度もない。


そんな輝夜の言葉だからこそ、そこそこ先見の明がある晴明も反対はせず、じっくり頷いた。


「そうか…そなたには見えているのだな」


「私にも見えないものは多いですよ。特に兄さんのことはね」


「あの子は一段ときれいで強くなった。十六夜に似て女運が悪くなければいいが」


「ははは、兄さんはそつがないから大丈夫でしょう。お祖父様、私の妹には…もうしばらく不幸がつきまといます。…今のままではね」


晴明はため息をつき、頰をかいて微笑のままの輝夜を見つめた。


「で、どうなると?」


「…できることは少ないんですよ。ただ妹の手を優しく握ってあげて下さい。あの子はどうにも思い詰める節がある。お洒落をさせたり連れ出したり、そして何よりも」


何よりも、雪男と過ごす時間をもっと。


「心得た。私にできることならばなんでも」


「あと私が戻って来ていることは父様たちには秘密に。がみがみ言われたくありませんからね」


最後は茶目っ気たっぷりの輝夜に笑みを誘われ、輝夜の頭を下げ撫で回した。