主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

使命があるーーそれがどれほど重たいものなのか推し量ることはできず、ただ輝夜が朗らかな性格なので重圧を一切見せることがない。

もっと早くこの兄と過ごすことができたらな、と思いながらその腕に抱かれて空を飛んでいた。

景色が消し飛ぶように変わり、眼下には町や山林が見え、雪男が遠出しているのが分かる。


「お師匠様はどこに…」


「彼の妖力は甚大なので被害が及ばない所まで」


北の奥深く、人が立ち入らないような高い崖があり、その垂直の斜面には滝が流れていた。
轟音を上げて落ちる大量の水と飛沫ーーその下に雪男は居た。


雪月花を手に構えて。


「お師匠様…?」


近くの茂みに隠れてその様子を見ていると、雪男は虹色に発光する雪月花を振りかぶり、滝に向けて斜めに振り下ろす。

切り口の断面は瞬時に凍りつき、さらに振り上げると氷が砕け散って空中を舞う。

しばらくするとその氷が結合し合い、透明な人形を纏って雪男の前に立った。


「な、なんですかあれは…」


「彼自身は雪月花が見せる幻を自在に操ることはできませんが、氷を媒介にして一時的に人形を作ることができます。その強さは作った者に比例する…つまりあの氷の人形はそこらの妖とは比較にならない程、強い」


実際氷の人形の手にも刀が握られ、雪男の速い打ち込みを避けながら向かって行く。

膨れ上がる妖気に鳥肌が立った朧は、輝夜にしがみつきながらも目を離さなかった。


「なんであんなことを…」


「妖という生き物はね、人と似通っている部分もあるんですよ。何かを守るために強くなりたい…これ以上何も零れ落ちないように、強くなりたいってね」


「私の…せいですか…?」


「君のせいというよりも、君のために。いつか屋敷を出て行く君の目にその姿が焼きつくように。君を愛している、と無言で訴えているんですよ。だからもっと強くなりたい…つまりはそういうことです」


ーー全部、自分のために。

あんなに手酷い別れ方をしたというのに不器用な愛情を示し続けてくれる雪男の戦う姿は壮絶に美しく、朧は嗚咽を漏らしながら輝夜に抱きつく。


「私…お師匠様が…大好きです…」


「ええ…朧、あなたも選択を違わぬよう。見守っていますからね」


未来は決まっているが、道筋を間違えると本来出くわさないはずの困難に遭遇してしまうーー

だが輝夜はそれを教えてやることはできない。

ただ、声無き声が聞こえなくなるまで、傍に居る。