主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「………」


数時間後朧の部屋を訪れた雪男は、黙り込んで目の前の光景を腕を組んで見ていた。


…床の中朧がすやすや寝ているのはいいとして、その隣…

輝夜が腕枕をしてやりつつ一緒に寝ていたのだから、心中穏やかではない。


「…俺だってしたことないのに…」


実兄であるが、輝夜の胸に頰を寄せて寝ている朧を見てついいらいらした雪男は、輝夜側に回り込んでぺしっと頭を軽く叩くと、居間で机に頬杖をつきながら文を見ていた朔にぼやいた。


「なんだよあれ…」


「ああ、輝夜か?よく寝ていたな」


朔も様子を見に行ったらしく、文に目を落としたままふっと笑う。


「あれにとっては束の間の帰還だ、好きにさせてやれ」


「まあいいけどさ。あ、主さま、俺今日も出かけるから」


朔が顔を上げる。

少し切れ長の吸い込まれそうな黒瞳に思わず雪男が視線を逸らせず固まると、文を机に置いて腕を組んだ。


「それはまだ必要なのか?」


「え?な、なんのこと…」


「お前にとって必要なら別にいい。俺から見たら必要ないと思うが」


ーー連日出かけている理由をまるで知っているような口ぶりに雪男は冷や汗をかきながら視線をさ迷わせた。


「意味がわかんねえけど…じゃあ行ってくる」


「ああ。怪我するなよ」


またぎくっとなりつつ雪男が屋敷を後にすると、廊下側からすっと輝夜が入ってきた。


「行きました?」


「ああ、今な。尾行するなら気配を殺して行けよ」


「お任せ下さい。朧、行きますよ」


羽織を着込ませた朧を輝夜がひょいっと抱えた。
それをじっと朔が見ていると、輝夜は眩むような笑顔で誘いをかけた。


「兄さんも一緒に行きます?」


「いや、いい」


「行くならそうですね、私が姿を眩ませる術を使いますから密着しないとですし、兄さんが私を抱えて…」


「いや、いい」


再び文に目を落とした朔に唇を尖らせると、朧がくすくすと笑って朔に手を振った。


「行ってきます」


「ああ、行っておいで」


妹には最高の笑顔。


「弟も可愛がってほしいなあ」


輝夜がぼやいてまた朧が笑った。