主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

実に中性的な輝夜を前に朧は慎重に言葉を選んでいた。


「輝夜兄様は…どちらにお住まいなのですか?」


「住まいはありません。方々で友を得て、居を借りています」


「私のことを知っているそうですが…どこまてですか?」


「そうですね…最後まで」


ーー最後まで。
言葉の重みに朧が黙ると、輝夜は掌を見つめて囁いた。


「君も未来を知りたい?」


「教えて…下さるんですか?」


「…それはできませんが、知ったとしてもろくなことにならないですよ」


経験値の差からなのか、輝夜は達観した遠い眼差しで何かを思っているように見えた。


「未来が幸福であると知ればそれに胡座をかいて努力をしなくなるでしょう。逆に不幸と知れば己の全力を賭して足掻き、道が途絶えるかも知れない。だから未来の話をすることはできません」


「…ごめんなさい」


「君は雪男の手を離したことで声無き声を上げて叫んだ。私はその声を聞きました。聞こえたからには私の使命として君の未来を見届ける義務があるのです」


輝夜の前で正座していた朧は啓示を聞いたかのようにぴんと背筋を伸ばしたが、輝夜は朧の長い髪に触れて屈託無く笑った。


「雪男が毎日出掛けていますが、その理由を知っていますか?」


「いえ…」


「彼は愛しい者を失って、その心の穴を埋めるためにあることをしています。それを知りたいですか?」


あることーー
頭に女の影が浮かぶと輝夜はそれを見たかのようにゆっくり首を振った。


「きっと今日も出かけるでしょう。兄からの餞別です、こっそり跡をつけて見せてあげますよ」


最近ずっとよそよそしかった雪男。

そうなってしまったのは自分のせいなのだが、自分の知らないところで雪男が何かをしているのは気になる。


「連れて行って下さい」


「はい、もちろん。その前に少し寝なさい。私が傍に居てあげましょう」


布団に潜り込むと一気に睡魔がやってきた。

輝夜は朧の額に手をあてて目を閉じる。

可愛い妹が悪夢を見ることのないよう、天に与えられた力で悪しきものを吸い取り続ける。