主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

じりじりと距離を縮めるふたり。

ひたと互いを見据えながらも、輝夜が帯から神楽鈴を抜いて腕を伸ばして眼前に構え、しゃんと鳴らした。

その神聖な響きに百鬼の中から呻き声をあげる者が現れ、雪男が警告の声をあげた。


「弱い者は下がれ!」


そうは言われてもこの兄弟の舞いなど一生に一度見られるかといった代物なので誰も下がる者は居ない。

神楽鈴を鳴らしながら輝夜が朔に近寄ると、とんと地面を蹴った朔は、疾風の速さで輝夜に迫ると身を翻して背後から一太刀浴びせた。

だがその場に居たはずの輝夜の姿はなく、朔が頭上を見上げると、刀を振りかぶった輝夜が脳天目掛けて舞い降りる。


「兄さん、手加減は困りますよ」


「そんなのする暇はない」


難なく片手で受け止めた朔が笑み、一旦飛び退った後錐揉み回転を加えながら胸の前で刀を構えて受け止め体制の輝夜と衝突した。

強大な妖力がぶつかり、かがり火が消し飛んで消えて行く。
髪を束ねていた紐が焼き切れて、輝夜の長い髪が爆風に舞う。
朔と輝夜の周囲には青白い鬼火が飛び交い、ふたりが荒ぶっているのが見て取れた。


「一筋縄じゃないな」


「さすが兄さん…血を流したのは久々ですよ」


面の取れた輝夜の頰に傷が走り、忘れていたかのように血が滴る。
眼前で神楽鈴を鳴らされた朔が飛び退ると、正面でぶつかったふたりは心を重ね合わせるように見つめ合い、互いの目の中に青白い炎を見た。


「お前が傍に居てくれたならと今でも考えるぞ」


「私は根からの風来坊ですよ。兄さんの傍に居ては心配をかけて困らせてしまう。それは私の本意ではないんです」


示し合わせたかのようにふたりがゆっくり離れる。
面を被り直した輝夜は頭上で神楽鈴を構え、朔は頭上で刀を横に構え、家に伝わる舞いを踊り始める。

静の時間ーー

神楽鈴の聖なる響きと、ふたりの神楽。
静と動の躍動に皆が酔いしれ、美しさのあまりくらくらした朧は雪男にもたれかかった。


「きれい…」


「お前ん家に伝わる舞いだ。覚えていて損もなければいつか主さまたちと舞いたいだろ?」


「はい」


朔と輝夜が右手と左手を合わせてゆっくり回転する。
目眩がするほど華やかで、そんな兄をふたりも持つことができ、そして自分のために舞ってくれたことを心から感謝して、悪夢には負けまいと奮起し、黙って傍に居てくれる雪男の袖を握り続けた。