主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「だけど兄さん、あんな小さな妹が居るだなんて、父様は頑張りますねえ」


「そうだな、俺たちとはかなり歳が離れているからな。だから余計に可愛がってしまう」


刀と刀がぶつかって火花が散る。

朔と背中合わせに立っている輝夜は鬼の形相で向かってくる敵に、まるで恋人に見せるような笑顔を向けて破顔させた。

その隙に敵の手から素早く刀を奪い取ると、自らの獲物も手に鮮やかな十字の傷を浴びせて噴き出す血を華麗に避ける。

ーー全く勝てる気がしない…

徒党を組めばどうにかなると甘い考えの敵集団は、雪男が不在だと知ると最初は喜んだが…

朔の隣に立つ一見性別不明の人物に仰天してまごまごしていた。

妖の世界では人の姿を保っているだけで強いと分かる。
それが恐ろしく美しければーーもう命を諦めた方がいい。


「輝夜、焔の居場所は分かるか」


「ええ、うまいこと気配を消して動いています。ですが…追い込まぬ方が良いかと」


敵から奪った刀を勢いをつけて翼のある妖に投げると、あっさり貫かれて落ちていくのを見ながら輝夜が呟いた。

朔は昔からどこか考えの読めない輝夜の緩んだ胸元を正してやりながら、小さく笑った。


「あいつが見つかれば全て終わると思うが?」


「いいえ、それはありません。兄さん、彼にも言い分があるんです。落ち着いた環境で考えがまとまるまでは適度に捜している風を装って下さい」


「装う、か。お祖父様も捜すと言っていたが」


「私からお話しておきましょう。あ、兄さん」


朔に向かって突進して来た山のように大きな猪の脳天に輝夜の刀がするりとめり込む。

相変わらず血しぶき一つ浴びなかった輝夜は、抜いた刀をひゅっと振って血を落とすと、腰の鞘に収めた。


「ああ疲れた。帰ったら妹に癒されてもいいでしょうか」


「得体の知れん兄だからなお前は。怖がらせないようにしろよ」


「いやだなあ、兄さんよりは怖くないですよ。昔から怒られてばかりだったなあ、懐かしい」


柔らかい眼差しで童だった時代を思い返す。

朔は、奇妙な運命を定められた輝夜の肩を抱き、顔を覗き込んだ。


「帰ったら一杯やろう」


「ええ、妹を骨抜きにした雪男ともよく話をしなければね」


そして雪男の悩みの種が増えることになった。