主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

突然兄と言われてもーー


朧が戸惑っていると、輝夜は光る鬼灯を朧に向けて翳した。


「やあ、私の妹よ。君に呼ばれてきたよ」


「私に…呼ばれた…?」


尻尾を箒のように逆立てて警戒する銀をちらりと流し目で見遣った輝夜は、腰に手をあてて苦笑しながらため息をついている朔の袖を童のように引っ張って朧の隣に座った。


「あ、あの…はじめ…まして…」


「うん、私は初めましてじゃないけど、初めまして」


奇妙なやりとりに朧が混乱し、少し垂れた目をさらに和らげた輝夜は提灯の中から光る鬼灯を取り出すと、驚くことにそれをごくんと飲み込んだ。


「輝夜、だから驚かせるなと言ってるじゃないか」


「ああごめん、私はいつも言葉が足りないんだ」


皆が刀を鞘に収めて輝夜を取り囲む。

元からして口角の上がった口元はいつも笑んでいるように見える輝夜は、小さな末の妹とは初対面だというのに昔から知っているかのように笑って話しかける。


「私は少し特別な力を持っていてね、君の悲痛な叫び声が聞こえたんだよ。本当の声が」


「本当の…声…」


「私は全て知っている。けれどその顛末を口にすることはできないんだ。兄さん」


輝夜が朔を仰ぐと、朔は全て知っていると言った輝夜の言葉に緊張する朧の前で腰を折って屈み、小さく震える手を握った。


「輝夜は巡る運命の者。時を巡り、声も無く叫ぶ者を救済する定めなんだ。その輝夜にお前の声が届いた。先見の明があるが、それを口にすることは禁じられている。だが輝夜、お前が来たからには…」


「ええ兄さん、愛しき妹を救済しましょう。朧」


輝夜に名を呼ばれてぴんと背筋が伸びた朧は、朔のように優しく頭を撫でてくれるその手に安堵感を覚えて目を閉じた。


「はい」


「未来とは選択する毎に道は分かれ、けれど最後は決まった場所に落ち着くもの。私は君の運命の輪を回す者のひとりとして役に立ちましょう。この兄を慕ってくれますか?」


ーー慕わないわけがない。

大きく頷いた朧の頭をまた撫でた輝夜が立ち上がり、腰に提げている太刀を指した。


「ひとまず妹は雪男に託して兄さんの役に立ちましょうか」


「お前が?刀を振るうのは嫌なんじゃないのか?」


「己のために振るうのは嫌です。でも兄さんのためなら振るえますよ」


朔が笑み、輝夜の頰を親愛を込めてぴたぴたと叩く。


「よし、じゃあ行こうか」


百鬼から怒涛の歓声が湧く。

輝夜の腕は超一流で、頼もしき助っ人の登場に歓声はしばらく止まなかった。