その夜の百鬼夜行は出発が遅れた。
朔が妹を案じてのことなので百鬼は誰ひとり文句を言う者はなく、雪男は朧の傍で談笑している朔に提案を持ちかけた。
「俺はしばらく行けないから、銀を連れてけよ」
「ぎんか…」
朔も複雑な思いがあるらしく思案顔になると、雪男は軽く朔の腕をぽんと叩いた。
「あいつ最近真面目にやってたし、これ以上留守役させると腐っちまう。焔の件も知らないみたいだしさ」
朔が返事をしようとした時ーー障子を隔てた庭から異常な妖気をまとった生温い空気が噴き出した。
咄嗟に朔も雪男も刀を手に庭に飛び出し、朧も足がもつれながらふたりを追いかける。
「な…なんだあれ…」
雪男がぽつりと呟き、銀が既に異常を察知して真っ黒い球体が捻じ曲がりながら形を変えているものの前に刀を手に立っていた。
「朔、近付くな」
「いや待て、あれは…」
何か覚えがあるのか、朔は手を広げてこれ以上近付くなと警告する銀の手を押しのけてその前に立つ。
闇夜の中、さらに闇色のその球体の中心がーー金色に淡く光り輝いた。
「珍しいことだ…何十年ぶりだ?」
「主さま…なんだよこれ」
「まあ見ていろ」
皆が息を詰めて見守る中ーーすうっと出てきたのは、釣竿のような形の先端、竹で編まれた籠の中心に橙の光り輝く鬼灯が存在を主張し、さらにその提灯を持つ手が現れ、全体が見えた。
濃紺の着物の胸元が開いた緩い着こなしの男…いや、男なのか女なのか分からないほど中性的な謎の妖が朔の前で立ち止まった。
「久々すぎるぞ」
「兄さん…お久しぶりですね」
誰もが唖然とした。
長い前髪は右目を隠してはいたが、恐ろしく綺麗な顔立ちの男だと胸元で分かった。
背中半ばまである黒髪は紐で括られ、鬼灯の提灯を揺らして辺りを見回す。
「あの方は…鬼灯様じゃないか?」
「ああそうだ鬼灯様だ!主さまのひとつ歳下の…」
「輝夜(かぐや)、皆が驚いている。挨拶くらいしろ」
真の名は輝夜。
通り名は、鬼灯。
朧などは一度も見たことのない兄だ。
「これは失礼を…。私は鬼灯と申します。良しなに」
「輝夜か…お前どこに行ってた?心配してたんだぞ」
雪男が親しげに肩を抱き、輝夜は縁側で皆と同じように呆けている妹を見つめて笑った。
「悲鳴が聞こえたんだ…」
生まれた時から特別な力を持っていた双子とも言えるほど年の近い弟の帰還に、朔の頰が緩んでとろけるような笑顔になった。
朔が妹を案じてのことなので百鬼は誰ひとり文句を言う者はなく、雪男は朧の傍で談笑している朔に提案を持ちかけた。
「俺はしばらく行けないから、銀を連れてけよ」
「ぎんか…」
朔も複雑な思いがあるらしく思案顔になると、雪男は軽く朔の腕をぽんと叩いた。
「あいつ最近真面目にやってたし、これ以上留守役させると腐っちまう。焔の件も知らないみたいだしさ」
朔が返事をしようとした時ーー障子を隔てた庭から異常な妖気をまとった生温い空気が噴き出した。
咄嗟に朔も雪男も刀を手に庭に飛び出し、朧も足がもつれながらふたりを追いかける。
「な…なんだあれ…」
雪男がぽつりと呟き、銀が既に異常を察知して真っ黒い球体が捻じ曲がりながら形を変えているものの前に刀を手に立っていた。
「朔、近付くな」
「いや待て、あれは…」
何か覚えがあるのか、朔は手を広げてこれ以上近付くなと警告する銀の手を押しのけてその前に立つ。
闇夜の中、さらに闇色のその球体の中心がーー金色に淡く光り輝いた。
「珍しいことだ…何十年ぶりだ?」
「主さま…なんだよこれ」
「まあ見ていろ」
皆が息を詰めて見守る中ーーすうっと出てきたのは、釣竿のような形の先端、竹で編まれた籠の中心に橙の光り輝く鬼灯が存在を主張し、さらにその提灯を持つ手が現れ、全体が見えた。
濃紺の着物の胸元が開いた緩い着こなしの男…いや、男なのか女なのか分からないほど中性的な謎の妖が朔の前で立ち止まった。
「久々すぎるぞ」
「兄さん…お久しぶりですね」
誰もが唖然とした。
長い前髪は右目を隠してはいたが、恐ろしく綺麗な顔立ちの男だと胸元で分かった。
背中半ばまである黒髪は紐で括られ、鬼灯の提灯を揺らして辺りを見回す。
「あの方は…鬼灯様じゃないか?」
「ああそうだ鬼灯様だ!主さまのひとつ歳下の…」
「輝夜(かぐや)、皆が驚いている。挨拶くらいしろ」
真の名は輝夜。
通り名は、鬼灯。
朧などは一度も見たことのない兄だ。
「これは失礼を…。私は鬼灯と申します。良しなに」
「輝夜か…お前どこに行ってた?心配してたんだぞ」
雪男が親しげに肩を抱き、輝夜は縁側で皆と同じように呆けている妹を見つめて笑った。
「悲鳴が聞こえたんだ…」
生まれた時から特別な力を持っていた双子とも言えるほど年の近い弟の帰還に、朔の頰が緩んでとろけるような笑顔になった。

