その日はじめて感じた息苦しさに朧は戸惑い、倒れこむように居間で突っ伏すと、ちょうど起きてきた朔が慌てて駆け寄った。
「どうした、朧」
「兄様…っ、息ができな、い…」
ぜいぜいと喘ぎ、胸をかきむしる朧にさすがに慌てた朔は、庭の垣根を見回っていた雪男に向かって叫ぶ。
「雪男!薬師を…いや、お祖父様を呼べ!」
「えっ、どうし……朧!?」
ーー久々にちゃんと名を呼んでもらった気がした。
苦しさと嬉しさの間で涙が出ながらも、背中を撫でてくれる朔にそれを訴えた。
「うれし…名を、呼んで…くれ…た…」
「朧…ゆっくり息を吸って吐くんだ。そう、ゆっくり」
言われた通りに繰り返すが呼吸はなかなか元に戻らず、駆けつけた雪男は青白い朧の顔に動揺して手を伸ばしたり引っ込めたりしていた。
「晴明に使いを出したからすぐ来るはずだけど…朧、どうした?どっか痛いのか?」
「お師匠、様…っ」
「雪男、水を汲んで来るから傍に居てやってくれ」
「あ、ああ、うん…」
朔が足早に居なくなり、背中を丸めて苦しむ朧に恐る恐る手を伸ばして、あの出来事があって以来久々にーー朧に触れた。
「…大丈夫か」
「は、い…すぐ、良くなるは、ず…」
背中を撫でてくれる優しい手ーー何も変わっていないその優しさに、その手に触れたいと思いながらも、もし冷たかったら…
冷たかったらもう心がひとつではないという証明になってしまうーー
それが怖くて、着物越しでしか触れられない歯がゆさに、両者が苦しむ。
「もうすぐ晴明が来るから頑張れ…傍に居るから」
「ぅ…っ、はい…」
泣き声。
震える声で懸命に耐える朧に、忘れもしない想いが押し寄せる。
それはもう決して伝えられないもの。
ただ傍に居ることだけが唯一できること。
「頑張れ…」
傍に、居るから。
「どうした、朧」
「兄様…っ、息ができな、い…」
ぜいぜいと喘ぎ、胸をかきむしる朧にさすがに慌てた朔は、庭の垣根を見回っていた雪男に向かって叫ぶ。
「雪男!薬師を…いや、お祖父様を呼べ!」
「えっ、どうし……朧!?」
ーー久々にちゃんと名を呼んでもらった気がした。
苦しさと嬉しさの間で涙が出ながらも、背中を撫でてくれる朔にそれを訴えた。
「うれし…名を、呼んで…くれ…た…」
「朧…ゆっくり息を吸って吐くんだ。そう、ゆっくり」
言われた通りに繰り返すが呼吸はなかなか元に戻らず、駆けつけた雪男は青白い朧の顔に動揺して手を伸ばしたり引っ込めたりしていた。
「晴明に使いを出したからすぐ来るはずだけど…朧、どうした?どっか痛いのか?」
「お師匠、様…っ」
「雪男、水を汲んで来るから傍に居てやってくれ」
「あ、ああ、うん…」
朔が足早に居なくなり、背中を丸めて苦しむ朧に恐る恐る手を伸ばして、あの出来事があって以来久々にーー朧に触れた。
「…大丈夫か」
「は、い…すぐ、良くなるは、ず…」
背中を撫でてくれる優しい手ーー何も変わっていないその優しさに、その手に触れたいと思いながらも、もし冷たかったら…
冷たかったらもう心がひとつではないという証明になってしまうーー
それが怖くて、着物越しでしか触れられない歯がゆさに、両者が苦しむ。
「もうすぐ晴明が来るから頑張れ…傍に居るから」
「ぅ…っ、はい…」
泣き声。
震える声で懸命に耐える朧に、忘れもしない想いが押し寄せる。
それはもう決して伝えられないもの。
ただ傍に居ることだけが唯一できること。
「頑張れ…」
傍に、居るから。

