主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

雪男の戦い様は日毎に冴え、元々隠れ信奉者の多い男だったが、日増しに露骨にそれを主張する者たちが増えてきた。

第一に朔の側近である雪男がどれほど朔に頼られているかーー雪男が百鬼夜行に出るようになってからふたりの関係性は強くなり、また雪男が面倒見のいい男なので、話しかけるのも一苦労なことも多い。


「あの…どうか受け取って下さい」


「ん、ああ…ちょうど喉乾いてたんだ。ありがとな」


秋に差し掛かって涼しい風を浴びつつ池を見ながら寛いでいた雪男に声をかけたのは飛縁魔という美女で、手には砕いた氷に甘い果実の汁をかけた菓子を持っていた。


「この頃のあなた様の御活躍、物語となって町中に知れ渡っておりましてよ」


「んん、戦うのは元々嫌いじゃないしな。お前も女だてらになかなかな戦いっぷりじゃないか」


氷を口に放り込んでがりがり噛み砕きながら笑いかけると、滅多に女に話しかけない雪男と話が続いて有頂天になった飛縁魔は、頭にかぶった黒いほろをかぶり直して頰を赤らめた。


「あなた様と主さまが共に立たれているお姿を見たくて努力しております」


「主さまはちゃんとお前たちを見ている。いつか声をかけてくるだろうから精進しろよ」


「私はあなたが……いいえ、何でもありません。今日は私も百鬼夜行に出ます。またお声をかけても?」


「ああ、いいぞ。また夜に会おう」


まるで逢瀬を約束したかのような雪男の言葉に飛縁魔は目を潤ませてその場から足早に去る。

その途中に庭を掃いていた朧と目が合ったので頭を下げようとしたがーー金縛りにあったかのように身体が動かない。


「…お師匠様と話したの?」


「朧様…はい、少しだけ」


「何を話したの?」


ーー朧は無表情だったが噛み締めた唇は真っ赤になり、握った拳は震えていた。


「あ、あの…」


ふいっと目を逸らした朧は、どんなに醜い顔をしていたか自覚して眉根を絞る。

雪男は呑気に飛縁魔からもらった氷を食べながら鯉を眺めていて、こんなに苦しい思いをしているのは自分だけなのかと思うとまた苦しくなってその場から逃げ出した。


…あの手はもう冷たいのかもしれないーー


そう思うと胸をかきむしりたくなるように苦しくなり、呼吸が荒くなった。