その日の黄昏時、やはり雪男は髪を濡らして戻ってきた。
だが本人はどこかすっきりした顔で、訝しむ朔に笑いかけた。
「じゃっ、行くかー」
「ちょっと待て雪男」
雪男の左手首に赤い痣があり、目ざとくそれを見つけた朔は、白い着物の袖を握って痣を見た。
「これはどうした」
「あーこれは…先代に掴まれてさ。大したことないよ」
「どんな話をした?ちょっと教えろよ」
珍しく干渉してくる朔から少し離れた所に朧が居た。
先代に言ったように相変わらず何か言いたげな顔をしている朧と目が合った雪男は、にかっと笑って不自然にならないように視線を外す。
「いや別に難しい話はしてないな。先代から酒飲まされてさ、相変わらず俺様で懐かしかったよ」
ーー十六夜が潭月から代替わりして間も無く側近として迎えられた雪男からしたら、この町はもう故郷に居た時より長く住んでいる。
過去をあまり振り返ることのない妖がそれを滲ませる時は、その場所から去ろうとしていることが多く、朔もそれを知っていた。
「…居なくなるなよ」
「え?俺が?突然何だよ」
地図に目を落としながら雪男が問うと、朔は雪男の首にがしっと腕を回してる頭を下げさせると、強い口調で言い切った。
「俺から離れるな。お前には俺が百鬼夜行を率いている間…いや、俺の子の代まで居てもらうからな」
「ははっ、俺を子守に使うつもりか?主さまも小さい頃は可愛かったなー」
…また振り返る。
本人は意図せずなのだろうが、朔は童の頃に返ったように駄々をこねた。
「理由はどうでもいいんだ。とにかく離れることは許さない。お前の憂いは俺が払ってやるから何でも言え」
「ありがとな、主さま」
ふっと雪男が笑うと、朔もようやく安心したのか腕を外して髪をくしゃっと混ぜる。
「俺はここに居るよ。主さまの傍に」
「うん、そうしてくれ」
朧はそんなふたりをじっと見ていた。
もう見れなくなってしまうから。
だが本人はどこかすっきりした顔で、訝しむ朔に笑いかけた。
「じゃっ、行くかー」
「ちょっと待て雪男」
雪男の左手首に赤い痣があり、目ざとくそれを見つけた朔は、白い着物の袖を握って痣を見た。
「これはどうした」
「あーこれは…先代に掴まれてさ。大したことないよ」
「どんな話をした?ちょっと教えろよ」
珍しく干渉してくる朔から少し離れた所に朧が居た。
先代に言ったように相変わらず何か言いたげな顔をしている朧と目が合った雪男は、にかっと笑って不自然にならないように視線を外す。
「いや別に難しい話はしてないな。先代から酒飲まされてさ、相変わらず俺様で懐かしかったよ」
ーー十六夜が潭月から代替わりして間も無く側近として迎えられた雪男からしたら、この町はもう故郷に居た時より長く住んでいる。
過去をあまり振り返ることのない妖がそれを滲ませる時は、その場所から去ろうとしていることが多く、朔もそれを知っていた。
「…居なくなるなよ」
「え?俺が?突然何だよ」
地図に目を落としながら雪男が問うと、朔は雪男の首にがしっと腕を回してる頭を下げさせると、強い口調で言い切った。
「俺から離れるな。お前には俺が百鬼夜行を率いている間…いや、俺の子の代まで居てもらうからな」
「ははっ、俺を子守に使うつもりか?主さまも小さい頃は可愛かったなー」
…また振り返る。
本人は意図せずなのだろうが、朔は童の頃に返ったように駄々をこねた。
「理由はどうでもいいんだ。とにかく離れることは許さない。お前の憂いは俺が払ってやるから何でも言え」
「ありがとな、主さま」
ふっと雪男が笑うと、朔もようやく安心したのか腕を外して髪をくしゃっと混ぜる。
「俺はここに居るよ。主さまの傍に」
「うん、そうしてくれ」
朧はそんなふたりをじっと見ていた。
もう見れなくなってしまうから。

