主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

「氷雨、私は晴明の八咫烏を使わせてもらうからここでお別れね」


「あ、そうなのか。じゃあ母さん、元気でな」


にこっと笑った氷麗は、頭を下げて挨拶した息吹に深々頭を下げて返すと、去って行く。


「相変わらずきれいな方だね」


「ああ、でもすげえ毒吐くけどな」


談笑していると客間から十六夜が出て来た。
上物の酒が入った徳利を手にしていたのでぎょっとした雪男が後ずさりした。


「ちょ、ちょ…先代朝っぱらから?」


「…酒でも飲まんとできん話をする」


「私も加わっていい?」


頷いた十六夜はあらかじめ用意していた三人分の盃をことんと置くと、なみなみ酒を注いで雪男に待たせた。


「一気にやれ」


仕方なく飲み干したがーー喉が焼けつきそうなほど強い酒で、手の甲で口を拭うと軽く咳き込んだ。


「うわぁ、この酒やべえ…」


「…今回の件、朧がすまなかった。父親として謝罪する」


ーー普段頭など絶対に下げない男だ。
長い髪を束ねた髪紐についた鈴がちりんと音を立て、同じように息吹も頭を下げた。


「…いや、もういいよそれは…。…心変わりなんて誰にでもあるだろ」


「お前は本当にそう思っているのか?」


突然十六夜が素肌の雪男の手首を掴んだ。
双方ともに焼け付く痛みが伴ったが十六夜は離さず、続けた。


「お前を素手で触れる者など同族以外には朧だけだろう。心を通わせたんだ…そう簡単には断ち切れん」


「でも俺の手を離したんだ。俺から離れた。離れようとする朧をどうしろって言うんだよ…!」


手を振り払ってつい声を荒げた雪男は酒を注いでまた一気に飲むと、言葉に詰まる十六夜に笑いかけた。


「息吹の次は朧…つくづく自分でも嫌になったぜ。もう離れた理由なんかどうでもいいんだ関係ない。ただ…」


朧の泣き顔。
朧の笑顔ーー
これからも色んな表情を見せる姿を見ていられるはずだったのに。


「ただ…他の男を選んだくせに、俺に何か言いたそうにいつも見るんだ。…それをやめてほしい」


「…聞いてやればいいじゃないか、理由を」


「ははっ、聞いたところで元の関係に戻れるとでも?…もういいって。疲れたんだ」


「…今後どうするつもりだ」


「朧が出て行かないなら俺が出て行く。主さまにもそう話すつもりだよ」


朔は雪男に全幅の信頼を寄せているので手放すわけがない。


「…そうか」


「ま、そうゆうこと。迷惑かけてごめんな」


「雪ちゃん迷惑だなんて思ってないよ…」


「じゃ、俺ちょっと用があるから行くよ。先代、息吹を大切にしろよ」


振り切るように雪男が出て行くと、息吹は鼻を啜りながら十六夜の肩にもたれかかった。


「あんな素敵な人居ないのに…朧ちゃんどうしちゃったの…?」


「…」


真相は朧しか、知らない。