その日の夜、雪男は長年敵対していた妖集団の大将首を獲った。
姿を見せた途端稲妻のような速さで駆け抜け、下段から上段に斜めに振り放った一撃は、雪男の姿を識別する間も無く胴と首を切り離し、鞘のない雪月花の刀身から滴る血が地上へ落ちて行く。
「お見事」
朔の労いにようやく百鬼たちから歓声があがり、雪男の隣に移動した朔だけがーー雪男の冷えた表情にぞっとした。
「…雪男?」
「え?あー、ちょっと力が入りすぎたな。ま、これで敵対勢力が減ったことだし、成果は上々」
蜘蛛の子を散らすようにして頭を失った妖が逃げると、朔は雪男の胸を拳でとんと叩いた。
「無茶をするな」
「いや、あれくらいできないと主さまを守れないだろ」
「…朧のことがあったからか?」
それまで笑みを浮かべていた雪男の表情がすっと無くなり、朔は胸を痛めながら皆に聞かれないよう声を落とした。
「いつかは朧から説明がある。それまでは短気を起こさず…」
「ああそういや、母さんが故郷に帰るんだ。先代に挨拶に行きたいって言ってたから話を通してやってくれるかな」
「…分かった」
話を逸らされて二の句が告げられないでいる朔も珍しく、それは雪男の心情を慮っていることもあったので、無闇に朧の名を口にしないほうがいいとこの時朔は判断した。
「夜明けが来る。戻ろう。雪男、大義だった」
「おう。で、主さま。なんで銀は留守番なんだ?」
「色々あってな。しばらくあの親子の顔を見たくないんだ」
「…ふうん。ま、そういう時もあるよな」
同調した雪男の髪をくしゃくしゃと混ぜる。
ふたり笑い合って家路につき、庭に降りると朧がこちらを見上げているのが見えた。
「…普通に話せるか?」
「ああ、楽勝だぜ」
また冷えた表情になる。
雪男には笑顔が似合うのにーー
朧もまた何とか笑顔を作り出す。
少しでもこちらを見てほしい。
少しでも自分に話しかけてほしい。
その一心で、震える足を叱咤して待ち続ける。
姿を見せた途端稲妻のような速さで駆け抜け、下段から上段に斜めに振り放った一撃は、雪男の姿を識別する間も無く胴と首を切り離し、鞘のない雪月花の刀身から滴る血が地上へ落ちて行く。
「お見事」
朔の労いにようやく百鬼たちから歓声があがり、雪男の隣に移動した朔だけがーー雪男の冷えた表情にぞっとした。
「…雪男?」
「え?あー、ちょっと力が入りすぎたな。ま、これで敵対勢力が減ったことだし、成果は上々」
蜘蛛の子を散らすようにして頭を失った妖が逃げると、朔は雪男の胸を拳でとんと叩いた。
「無茶をするな」
「いや、あれくらいできないと主さまを守れないだろ」
「…朧のことがあったからか?」
それまで笑みを浮かべていた雪男の表情がすっと無くなり、朔は胸を痛めながら皆に聞かれないよう声を落とした。
「いつかは朧から説明がある。それまでは短気を起こさず…」
「ああそういや、母さんが故郷に帰るんだ。先代に挨拶に行きたいって言ってたから話を通してやってくれるかな」
「…分かった」
話を逸らされて二の句が告げられないでいる朔も珍しく、それは雪男の心情を慮っていることもあったので、無闇に朧の名を口にしないほうがいいとこの時朔は判断した。
「夜明けが来る。戻ろう。雪男、大義だった」
「おう。で、主さま。なんで銀は留守番なんだ?」
「色々あってな。しばらくあの親子の顔を見たくないんだ」
「…ふうん。ま、そういう時もあるよな」
同調した雪男の髪をくしゃくしゃと混ぜる。
ふたり笑い合って家路につき、庭に降りると朧がこちらを見上げているのが見えた。
「…普通に話せるか?」
「ああ、楽勝だぜ」
また冷えた表情になる。
雪男には笑顔が似合うのにーー
朧もまた何とか笑顔を作り出す。
少しでもこちらを見てほしい。
少しでも自分に話しかけてほしい。
その一心で、震える足を叱咤して待ち続ける。

