日が暮れかけた頃、雪男が戻って来た。
雨でもないのに何故か髪は濡れ、庭に集まった百鬼たちの輪に混じって談笑していた。
…いつも通りの風景だ。
だから、誰も気付かない。
「朧、少し酷な話をするけど聞いてほしい」
支度を整えた朔は、その言葉でまた緊張した朧の包帯で巻かれた手を優しく握った。
「見かけだおしだが、雪男は日常に戻った。だからお前もゆっくりでいいからそうしなさい」
「…はい」
「そして心の整理ができたら、この屋敷を出なさい」
「…え…」
「破談となったことで、お前たちがここに揃っていてはあらゆる面で支障を来してくるだろう。はっきりしておくが、俺は雪男を手放すつもりはない」
朧は鵺にまたがって尻尾の蛇と遊んでいる雪男を見つめながら、小さく返事をした。
「お前は俺の家族で大切な妹だ。今回の破談は…想像できなかった。お前にも理由があるんだろうが…残念だよ」
「兄様…」
「俺が当代の限りは雪男には隣にいて補佐してもらう。お前は実家に戻って、今後の人生を考えるといいよ」
ーー家族に甘いこの兄にしては手厳しいことを言ってきたのは分かった。
ただ朧としても未だ揺るがず雪男を慕う想いがあり、今すぐにここを出ていくという決断は出せない。
「ゆっくりで…いいでしょうか」
「いいよ、ただし顔を合わせる機会もあれば話すこともあるだろう。お前から雪男の手を離した以上つらいだろうが、あれも分かっている。普通に接しなさい」
「…はい」
「主さまー、行くぞー」
「ああ、今行く」
雪男が濡れてまた濃い色になった真っ青な髪をかき上げる。
その仕草だけでどれほど胸が苦しくなることかーー
「お師匠様…」
呟きは口の中で消えて、溶けていく。
雨でもないのに何故か髪は濡れ、庭に集まった百鬼たちの輪に混じって談笑していた。
…いつも通りの風景だ。
だから、誰も気付かない。
「朧、少し酷な話をするけど聞いてほしい」
支度を整えた朔は、その言葉でまた緊張した朧の包帯で巻かれた手を優しく握った。
「見かけだおしだが、雪男は日常に戻った。だからお前もゆっくりでいいからそうしなさい」
「…はい」
「そして心の整理ができたら、この屋敷を出なさい」
「…え…」
「破談となったことで、お前たちがここに揃っていてはあらゆる面で支障を来してくるだろう。はっきりしておくが、俺は雪男を手放すつもりはない」
朧は鵺にまたがって尻尾の蛇と遊んでいる雪男を見つめながら、小さく返事をした。
「お前は俺の家族で大切な妹だ。今回の破談は…想像できなかった。お前にも理由があるんだろうが…残念だよ」
「兄様…」
「俺が当代の限りは雪男には隣にいて補佐してもらう。お前は実家に戻って、今後の人生を考えるといいよ」
ーー家族に甘いこの兄にしては手厳しいことを言ってきたのは分かった。
ただ朧としても未だ揺るがず雪男を慕う想いがあり、今すぐにここを出ていくという決断は出せない。
「ゆっくりで…いいでしょうか」
「いいよ、ただし顔を合わせる機会もあれば話すこともあるだろう。お前から雪男の手を離した以上つらいだろうが、あれも分かっている。普通に接しなさい」
「…はい」
「主さまー、行くぞー」
「ああ、今行く」
雪男が濡れてまた濃い色になった真っ青な髪をかき上げる。
その仕草だけでどれほど胸が苦しくなることかーー
「お師匠様…」
呟きは口の中で消えて、溶けていく。

