朧は湯の中でも一言も発さなかった。
息吹は身体や髪を洗ってやり、湯の中で娘を抱きしめ続けたがさしたる反応はなく、魂が抜けたような朧に浴衣を着せてやり、朔の待つ居間へ移動した。
「ん、すっきりしてきたね」
「……はい…」
庭の奥深くに雪男の姿が見えた。
朧は顔を上げ、番傘をさして花に水遣りをしている雪男を一心不乱に見つめ続ける。
ーーその視線に気付かないわけがなかったが、雪男は朧を見ない。
視界に入れず、その態度から拒絶されているのだと朧も感じていたが、目を逸らすことができない。
「兄様…」
「…うん?」
「私は…間違えました…」
「…よく考えなさい。朧、誰もお前を責めないよ」
「責めていいんです。私は…なんてことを…」
唇が震える朧の肩を朔が抱いてやっていると、雪男が柄杓で肩を叩きながら縁側に近付いてくる。
朧の身体が緊張に震え、一瞬朔が身構えると、雪男の足が止まった。
止まって、そんな朔をじっと見つめる。
息を飲んでいる朧には目を向けなかった。
「主さま、ちょっと出かけてきていいか」
「外出とは珍しいな、どうした」
「ああ、ちょっとな」
用件を言わず外出したことはなく、訝しむ朔に背を向けた雪男の姿に朧はどうしようもなくまだ愛しいと心で叫びながら縋るような目で見つめ続ける。
「百鬼夜行までには戻ってくるよ」
「…共に行ってくれるのか?」
「ああ。しばらくは最前線に居るよ」
ーーしばらく、とは?
問おうにも、裏庭を通って居なくなった雪男に息をついた朔は、身体を丸めて泣いている朧の背中を撫でてやった。
「朧…」
「私は…間違えました…」
そればかり、繰り返した。
息吹は身体や髪を洗ってやり、湯の中で娘を抱きしめ続けたがさしたる反応はなく、魂が抜けたような朧に浴衣を着せてやり、朔の待つ居間へ移動した。
「ん、すっきりしてきたね」
「……はい…」
庭の奥深くに雪男の姿が見えた。
朧は顔を上げ、番傘をさして花に水遣りをしている雪男を一心不乱に見つめ続ける。
ーーその視線に気付かないわけがなかったが、雪男は朧を見ない。
視界に入れず、その態度から拒絶されているのだと朧も感じていたが、目を逸らすことができない。
「兄様…」
「…うん?」
「私は…間違えました…」
「…よく考えなさい。朧、誰もお前を責めないよ」
「責めていいんです。私は…なんてことを…」
唇が震える朧の肩を朔が抱いてやっていると、雪男が柄杓で肩を叩きながら縁側に近付いてくる。
朧の身体が緊張に震え、一瞬朔が身構えると、雪男の足が止まった。
止まって、そんな朔をじっと見つめる。
息を飲んでいる朧には目を向けなかった。
「主さま、ちょっと出かけてきていいか」
「外出とは珍しいな、どうした」
「ああ、ちょっとな」
用件を言わず外出したことはなく、訝しむ朔に背を向けた雪男の姿に朧はどうしようもなくまだ愛しいと心で叫びながら縋るような目で見つめ続ける。
「百鬼夜行までには戻ってくるよ」
「…共に行ってくれるのか?」
「ああ。しばらくは最前線に居るよ」
ーーしばらく、とは?
問おうにも、裏庭を通って居なくなった雪男に息をついた朔は、身体を丸めて泣いている朧の背中を撫でてやった。
「朧…」
「私は…間違えました…」
そればかり、繰り返した。

