主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朔は十六夜に挨拶に行けない旨を文にしたためて出した。

そして夜になっても朧が自室から出て来る風はなく、明かりもつけず、雪男の不安はますます募る。

ひとりにした方が、と言われて朧の部屋の前を行ったり来たりしていたので気配は感じているはずなのにーー出て来ない。


「まだ出て来ませんか」


「焔か。ああ…出て来ない。お前昨晩は一緒だったんだろ?様子はどうだった?」


同じく様子見に来た焔は、首を振って雪男をがっかりさせた。


「そうか…。突然様子がおかしくなったから、何かあったのは確かなんだ」


「…私が声をかけてみます」


「いや俺が声かけても出て来ないのに…」


「朧様。よろしいでしょうか」


「………はい…」


「…え…」


開かずの間と化していた朧の部屋の襖が開いた。
雪男は呆気にとられ、焔は雪男に一礼したあと中へ入って行く。


…ふたりの仲が良いのは知っていたがーー

まさか、祝言に気が乗らないのは…気持ちが変わったのだろうか?

たった一夜で?
そんなことが起こり得るのだろうか?


「何だよ…何が起きて…」


訳がわからない。

わからなすぎてどうすればいいか分からずに立ち尽くしていると、朧の異変に駆けつけた息吹が雪男の袖を引いた。


「…息吹…」


「雪ちゃん、私がちゃんと聞いてくるから。もう…朧ちゃんどうしちゃったの…?」

唇を噛み締めた息吹は、途方に暮れている雪男が火傷しないように袖の上から腕を握る。

あんなに夫婦になることを願っていた子が、雪男ではなく違う男と部屋に居るーー


あってはならないことが、起きていた。