主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

朧が部屋から出て来ないーー

今日は先代の元にふたりで挨拶に行く日だ。

雪男は、部屋の前で中に居るであろう朧に話しかけていた。


「朧、どうした?具合いでも悪いのか?」


「……いえ…」


「じゃあ何だよ心配するだろ。出て来いよ」


「…今日は……外に出れません」


襖越し…すぐ近くに朧が居るのがわかる。

外に出れないということは、挨拶に行く気がないのか?

雪男はじわりと不安を感じながら、根気よく話しかける。


「じゃあ今日は…行かないのか?」


「…はい。少し…考えさせて下さい」


「…何を?」


「……」


沈黙が流れる。

何を考えているのかーー考えなくてもわかる。

だが昨日の今日でこんな…こんな劇的に考えなど変わるものなのだろうか?


「雪男」


「ああ主さま…」


「出て来ないのか」


「そうなんだ。どうしたんだよ…」


朧の異変を聞いて駆けつけた朔は、一度軽く襖を叩いた。


「朧」


「兄、様…」


泣き崩れる声。

眉間に皺を寄せた朔は、一瞬逡巡してそっと話しかけた。


「そっとしておいた方がいいか?」


「…はい…ごめんなさい…」


…泣いている。

戸惑う雪男の肩を引いて部屋から遠ざからせた朔は、妹の異変を謝った。


「すまないが、今日はこのままにしておいてやってくれ。経緯は必ず聞き出してお前に話す」


「…ん、分かった」


表情が曇った雪男の髪をくしゃっとかき混ぜた朔は、あんなに幸せそうだった朧の顔が今涙に濡れている理由を考え続けた。