主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

漆黒の鵺に乗っていた氷麗は、まさに鬼神の如く刀を振るう朔に惚れ惚れしていた。

先代は恐ろしく強かったが、朔には柔軟さも見受けられる。
仲間に頼られ、時には仲間を護り、代わりに傷を負った時など百鬼総出で薬草を摘みに行ったりと大騒動になっていた。


「兄様、大丈夫ですか?!」


「ん、毒もないみたいだし、こんなのかすり傷だよ」


腕に負った傷は浅かったが、銀が布できつく腕を縛ると、氷麗を流し目で見遣る。


「今夜は客が居たからやりづらかったんだろう」


「お前は私のことを言っているの?そこらの妖よりは強いわよ私は」


銀はかつて先代と対立して大きな戦を仕掛けた者なので、当時百鬼だった氷麗としてはこの上なく好ましくない相手だ。

だが朔はあっけらかんと銀を受け入れているし、外部の者としては意見のしようがなかった。


「主さまごめん、俺が居ながら」


「いや、お前は朧の守り役だったからな。気にするな」


「主さま…あなたは先代と違って思いやりがおありですのね」


「ははっ、父にもあるはずだが。とにかく今夜の片はついた。夜が明ける、戻ろう」


「主さま、ちょっと相談が」


雪男が猫又を寄せて刀を鞘に収めている朔に耳打ちした。


「明日の百鬼夜行…休んでもいいかな」


「お前はよくやっているから構わない。どうした」


「あー…ちょっと…蛍を見に…」


視線を彷徨わせる雪男と朧に吹き出した朔はぽんと雪男の肩を叩いて笑んだ。


「他の連中には悟られないようにしろよ」


「もちろん。よし、帰ろう」


合図と共に猫又が猛烈な速さで空を駆け抜ける。