主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【短編集】※次作鋭意考案中※

百鬼夜行に出ると、改めて朔は危険に身を投じているのだ、と痛感する。

面白おかしく人を脅かしては食べたり、本意で生きたい妖にとっては邪魔な存在でしかなく、見つかるとすぐ攻撃を受けて殺そうとされる。

それを守るのが百鬼であり、朔と思想を同じくする者たち。

一際強い百鬼が朔の脇を固めるのだが、今回は雪男は朧の守り役だったので朔の視界の範囲内で動いていた。


「んーちょっとやりづらいな」


「何がですか?」


「お前、前に移ってくれ。後方が気になって集中できない」


猫又を止まらせた雪男は、無防備だった朧の両膝をすくい上げて抱えると、後ろに移動した。

つまり立場が逆転したわけで、まるで雪男に背後から抱きつかれているような格好になり、慌てて下を向く。


「何か…恥ずかしい…」


「何言ってんだこんなことで。ほらちゃんと猫又に掴まれって」


猫又は戦に集中して、なるべく被害が及ばないようにすいすい移動する。

右を見れば雪男が顕現させている雪月花が目に入り、ゆらゆらと透明な刀身の中が虹色に光る美しさに目を奪われる。


「……お前さ、もうちょっと太った方がよくないか?」


「え…ちゃんと食べてます」


「そうかあ?腰なんかめっちゃ細いし、こんなんじゃ……」


「え?こんなんじゃ…何ですか?」


黙ってしまった雪男を振り返ると、密着していたためすぐ傍に雪男の唇があり、息を飲んだ。

間近で見ると改めて白く長い睫毛は美しく、真っ青な目は気恥ずかしそうに何度も瞬きをしていた。


「お師匠様?」


「やべ…ちょっと…初夜の想像しちまった」


ーー初夜。

夫婦になってはじめての夜に行われる営みのことで、母に教わったことが一気に蘇った朧も顔が真っ赤になる。


「な…何を言うんですか!こ、こんなところで!」


「ごめんって!別にいいだろ、裸も見たことあるんだし」


「私はありませんけど!じゃあ帰ってから身ぐるみ剥がしますからね!」


「!い、いや、それは…」


「嫌とは言わせませんよ、私だけ見られてるなんて許せないっ」


「ごめんって」


耳元で囁かれた謝罪。

惚れた弱みとは恐ろしいもので、それだけで全て許せてしまう。

前方には刀を抜いた朔。

凛々しく美しいその佇まいを見習わなければ、と朧は目を凝らす。