少し休みたい、と言われて居間に移動した雪男は、そこで待ち受けていた朔に氷の入った湯呑みを渡されて一気に飲み干した。
「苦戦しているな」
「んん…まあ一筋縄じゃいかないとは思ってたからさ」
夏の終わりの蝉は騒がしく、ただその喧騒もどこか耳にあまり入らない。
ぼんやりしている雪男に声をかけず、朔は何者も魅入ってしまう目でどこか不審な雪男を観察していた。
「親に反対されて諦める程度のものであれば、縁がなかったんだろう。朧にもちゃんと言って聞かせるから安心しろ」
はっと息を飲んだ雪男が驚いて朔の手をひんやりした手で掴む。
「主さま!」
「親が大切なのはわかる。すべてはお前次第だ。氷雨」
名を呼ばれてぞくっとしてまた息を飲んだ。
朔は、静かに耳に心地の良い低い声で雪男の緊張している心を溶かす。
「俺はただ、妹に悲しんでほしくないんだ。分かってくれ。朧を幸せにできるのは、氷雨…お前だけだからな」
「…うん…はい。努力します」
窘めてくれた朔に頭を下げ、衣摺れの音がして朔が腰を上げて自室へ戻って行くと、雪男は畳を見つめながら考える。
母の不安をずっと拭うことはできないだろう。
だが怯えているばかりでは誰も幸せにはなれない。
「お師匠様…」
背後からそっと声がかけられて振り向くと、いつの間にか朧が正座して待っていた。
美しく朔によく似た目には不安の光が瞬き、噛み締めた唇はいつも以上に真っ赤になっていた。
「心配するなって」
手を伸ばすと朧の手も伸びて、指先を絡め合った。
温かな体温に笑みが漏れた雪男は、不安がる朧に笑いかけた。
「困難に直面すると燃えるってもんだ。俺に任せとけ」
「はい」
朧がふわっと笑った。
それだけで頑張れる、と思った。
「苦戦しているな」
「んん…まあ一筋縄じゃいかないとは思ってたからさ」
夏の終わりの蝉は騒がしく、ただその喧騒もどこか耳にあまり入らない。
ぼんやりしている雪男に声をかけず、朔は何者も魅入ってしまう目でどこか不審な雪男を観察していた。
「親に反対されて諦める程度のものであれば、縁がなかったんだろう。朧にもちゃんと言って聞かせるから安心しろ」
はっと息を飲んだ雪男が驚いて朔の手をひんやりした手で掴む。
「主さま!」
「親が大切なのはわかる。すべてはお前次第だ。氷雨」
名を呼ばれてぞくっとしてまた息を飲んだ。
朔は、静かに耳に心地の良い低い声で雪男の緊張している心を溶かす。
「俺はただ、妹に悲しんでほしくないんだ。分かってくれ。朧を幸せにできるのは、氷雨…お前だけだからな」
「…うん…はい。努力します」
窘めてくれた朔に頭を下げ、衣摺れの音がして朔が腰を上げて自室へ戻って行くと、雪男は畳を見つめながら考える。
母の不安をずっと拭うことはできないだろう。
だが怯えているばかりでは誰も幸せにはなれない。
「お師匠様…」
背後からそっと声がかけられて振り向くと、いつの間にか朧が正座して待っていた。
美しく朔によく似た目には不安の光が瞬き、噛み締めた唇はいつも以上に真っ赤になっていた。
「心配するなって」
手を伸ばすと朧の手も伸びて、指先を絡め合った。
温かな体温に笑みが漏れた雪男は、不安がる朧に笑いかけた。
「困難に直面すると燃えるってもんだ。俺に任せとけ」
「はい」
朧がふわっと笑った。
それだけで頑張れる、と思った。

