ふたりでゆっくり話をしてくれ、と言い残して朔が客間を出て行く。
ずっと俯いていた氷麗は、気遣って離れない雪男の手を摩った。
「大丈夫よ、驚いただけ」
「母さん…ごめん」
「…何故人を選ぶのかしら。短い命を燃やすその輝きに魅せられるのかしら」
「朧は…人だし妖でもある。きっと生は短くないし、だから…」
「私の親友は人に騙されて死んだわ」
突然の独白に言葉が詰まった。
その声には憎しみが宿り、きっと目を上げた氷麗の眼差しは、怒りに満ちていた。
「氷雨…人はね、心変わりするの」
「…うん」
「私たちは一度縁を結ぶとずっと想い続けるわ。でも人は…裏切るの。私の友は人の男と夫婦になって幸せに暮らしていたけれど…他に女ができたわ」
ーーこの独白は自分を諌めようとしているのだ。
そうわかっていたが、口を挟まずに聞く。
それはとても大切な話だと悟ったから。
「女ができて、私の友は男に触れることが怖くなった。心が離れてしまったら、再び火傷を負い、男も凍傷を負う。それが怖くて苦しんでいたけれど、決意したの」
「母さん…」
「私の友は、一糸纏わぬ姿になって男を抱いて…溶けて死んだの」
…心が離れると、最悪の結末に陥る。
男は凍って死に、妖の雪女は溶けて死ぬ。
ただそれが最善の独り占めの策なのだと言い残して死んだ友。
「…母さん、俺もそうなるって思ってる?」
「……ええ、そうよ」
「そうはならない。俺たちは大丈夫だから。母さん、信じてくれ」
ほろりと氷の涙が落ちて床に転がる。
両手で顔を覆って泣き、悲劇ばかり想像してしまう母を抱きしめた雪男は、気が済むまでずっとそうしていた。
ずっと俯いていた氷麗は、気遣って離れない雪男の手を摩った。
「大丈夫よ、驚いただけ」
「母さん…ごめん」
「…何故人を選ぶのかしら。短い命を燃やすその輝きに魅せられるのかしら」
「朧は…人だし妖でもある。きっと生は短くないし、だから…」
「私の親友は人に騙されて死んだわ」
突然の独白に言葉が詰まった。
その声には憎しみが宿り、きっと目を上げた氷麗の眼差しは、怒りに満ちていた。
「氷雨…人はね、心変わりするの」
「…うん」
「私たちは一度縁を結ぶとずっと想い続けるわ。でも人は…裏切るの。私の友は人の男と夫婦になって幸せに暮らしていたけれど…他に女ができたわ」
ーーこの独白は自分を諌めようとしているのだ。
そうわかっていたが、口を挟まずに聞く。
それはとても大切な話だと悟ったから。
「女ができて、私の友は男に触れることが怖くなった。心が離れてしまったら、再び火傷を負い、男も凍傷を負う。それが怖くて苦しんでいたけれど、決意したの」
「母さん…」
「私の友は、一糸纏わぬ姿になって男を抱いて…溶けて死んだの」
…心が離れると、最悪の結末に陥る。
男は凍って死に、妖の雪女は溶けて死ぬ。
ただそれが最善の独り占めの策なのだと言い残して死んだ友。
「…母さん、俺もそうなるって思ってる?」
「……ええ、そうよ」
「そうはならない。俺たちは大丈夫だから。母さん、信じてくれ」
ほろりと氷の涙が落ちて床に転がる。
両手で顔を覆って泣き、悲劇ばかり想像してしまう母を抱きしめた雪男は、気が済むまでずっとそうしていた。

